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第12話

四本王12話 狼男の朔狼と酒呑童子の全華 キャラクター紹介 https://fujossy.jp/fanarts/8151 「薔鬼王様!」 王が目を覚ますと、眼前には桜天と向蛇、雪椿が心配そうな顔で自分の顔を覗いていた。 そうだ、狐紅は___... 「狐紅はっ!狐紅はどうなった!?」 王が目覚めたので百又と薇呑、第一部隊の四人も駆けつけた。薇酒はまだ目を覚めしていないようだ。全員朝魚の治癒が終わった後の様で、目立った外傷は無くなっていた。 「敵は取り逃しましたが追跡は可能ヨ。侵入者の一人の双曲刀に水蜘の蜘蛛の糸をつけておいたネ。水蜘の妖力なら十里くらいは切れない筈ヨ。」 「さすが菊龍ちゃん!仕事出来るわねえ!」 「よし!早速追跡する!」 「お待ちくださいにゃ。」 追跡を指示した王を止めたのは、百又。 「敵は狼男ですにゃ。今の状態で闇雲に行っても全員やられますにゃ。」 「此処にいるのは国の最高戦力だ。先ほどのような奇襲とは違う、充分対応できる!」 「狼男を侮ってはいけませんにゃ!!!」 突然叫び出した百又に王は驚いた。千年前の建国期から生きてる百又は、年の功もありいつも冷静であった。どんな局面であっても感情に左右されず、常に冷静な判断をしてきた。王はその冷静さに数えきれぬほど助けられてきた。 その百又が、これほど焦りの感情を露わにしたのを見たのははじめてであった。 一度叫んで少し頭が冷えたのか、百又は静かに喋りはじめた。 「酒呑童子一族は並外れた妖力で王族となりましたにゃ。数字で表すなら他の妖怪の妖力が十とするならば酒呑童子一族はその一千倍ほどの一万というところでしょう。酒呑童子一族にとっては他の妖怪の猛者が何人居ようが関係無いのです。悔しいことに、ワタシは千年研鑽を積み妖怪の中でも屈指の妖力を手に入れました。これでようやく生まれてから訓練も碌にしたことが無い薇酒様に勝てる程度でしょう。それほどに、酒呑童子は種族としてもう別物なのですにゃ。」 王は驚いた。自身が周りより強いことは肌で感じていたが、そもそも種族としてそれ程までに他の妖怪との差があるとは思わなかったからだ。沢山の妖怪を見てると言っても自分はたかだか二十年しか生きていない、百又はその五十倍は見てきている。自分とは見てきた妖怪の数が違うのだ。 「そして狼一族はその酒呑童子一族と同等の力を持ちます。千年前、建国期にいた狼男は初代国王全華王と同等の力を持ち一人で数千人の妖兵の働きをしていました。これで、今回のことの重さがわかったと思います。」 「待て!我は徹底的に建国学を学んだ!妖全華国に狼男が居たなどいう話は初耳だぞ!」 「仰る通りです、彼の存在は公の歴史からは抹消されたからですにゃ。」 「歴史から抹消された、だと?」 「...いつかお話しせねばと思っておりましたにゃ。四本角としてお生まれになった貴方様には。この国の呪いについて。」 百又は千年前のことを話しはじめた。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 千年と十五年前。 この時代は酷いものだった。 風が吹けば血の匂いが混じり、毎日どこかで戦いがあった。 強きものが力で奪い、弱きものは全てを奪われる。弱肉強食の世界。 弱小種族の妖怪にとって生き延びることは苦行であった。 百又はこの時代に、弱小種族の化け猫として生まれた。強者に見つからず寝る場所を毎晩必死に探した。食べ物を見つけられる日の方が珍しく、毎日空腹だった。 ある最悪の日。 百又や他の弱小妖怪たちが逃げ隠れする場所に、荒くれ者の牛魔王の盗賊団が襲って来た。牛魔王は数百人の鬼や羅刹を従え、弱小妖怪たちを蹂躙していった。 そんな地獄の沙汰に突如光のように響いたのは、透き通った少年の声。 「武器を捨て、頭を垂れよ!ここにおわすは最強の酒呑童子、我らが全華王である!」 百又が声の方を見ると、四本の角を持つ緋色の髪の少年が見えた。その隣には翡翠の装束と銀色の鎧、そして緋色の外套を纏う狼男の少年。そして後ろには翡翠の装束と銀色の鎧を身につけた数人の兵士たちを引き連れていた。 「ああん?!酒呑童子だあ?!関係ねえぜ!野郎ども!やっちまいなあ!」 狼男の少年の警告を鼻で笑い、牛魔王は鬼や羅刹に攻撃を指示する。 警告に従う意思が無いと判断した狼男の少年は王に言う。 「ご命令を、王!我らは貴方の剣!荒くれ者を倒し、この地に巣食う呪いまでの道は我らが切り開きます!」 「命じる。我が道を開け!」 王の号令を受け、翡翠の戦士たちは雄叫びをあげて戦いを始める。 翡翠の戦士たちはたった数人。数百人の鬼や羅刹に数では圧倒的に不利にも関わらず次々と敵を薙ぎ倒していく。 特に緋色の外套を着た狼男の少年の勢いは凄まじく、手に持っている大剣を一振りすれば一気に数十人は吹っ飛んだ。 数刻の内に、数の形勢が逆転していく。 牛魔王はこの流れが不味いと感じたのか、逃げ回っていた百又の腕を掴んで無理矢理持ち上げ、狼男の少年の前に突きつけた。 「動くなギュウ!正義の兵士様は可哀想な弱小妖怪を見捨てねえよなあ?」 牛魔王が脅しの文句を言い終わる前に、狼男の少年は電光石火の如く牛魔王の目の前に移動し、百又を掴んでいた腕を切りつける。そしてすかさず百又を横抱きで抱えて横に跳び、牛魔王から距離を取った。 「怪我は無いか?」 「は、はいにゃ...」 「いっぱい走って、この場から離れるんだ。出来るか?」 「はいっ!」 「良い子だ」 そう言って百又に笑顔で笑いかけてくれた。地獄の時代に生まれた百又が、はじめて見つけた光だった。 百又は走り出す。 「ギュウツウツウウ!!!!!」 牛魔王は怒りで筋肉を膨張させ、腕を止血した。そして怒りをぶつけようと狼男の少年に突撃する。身体が膨張し、その体躯は八尺を超えていた。ぶつかられるだけで即死してしまいそうだ。向かってくる牛魔王に対し狼男の少年は大剣を構え、高密度に圧縮した風を牛魔王の腹に叩きつけた。 牛魔王は白目を剥き、その場に倒れた。 狼男の少年は、大剣を上に掲げて声高らかに言い放った。 「牛魔王は倒れた!この戦、我らの勝ちだ!」 大将が倒され、勝ち目が無いと悟った残りの鬼や羅刹たちが逃げて行く。 「王!建国の儀を!」 「うむ」 酒呑童子の少年は、狼男の少年が掲げる大剣から牛魔王の血を拭い己の角に塗り、己の腕を少し切り血を己の角に塗る。 そして荒らすものが居なくなった古い祠に触る。 「建国の前儀、「血解の儀」を執り行う。」 辺り一面に呪いの禍々しさが広がり、暫くすると落ち着いていく。空気の重さが取れる。 「建国の本儀、「権刻印の儀」を執り行う。」 酒呑童子の少年の角が光り、今度は辺り一面に光が満ちる。その場にいた妖怪たちは、地が生まれ変わったのを感じた。 酒呑童子の少年は自身の胸に手を当てる。すると体躯から黄金が創造され、彼は自らが創造した黄金の大剣を空に掲げた。 「儀は成功した」 王の言葉を受け、狼男の少年は声高らかに宣言する。 「王の建国の儀が成功した!今からこの地は我らが妖全華国の一部となる!」 翡翠の戦士たちから勝利への歓喜の声があがる。百又たち弱小妖怪たちが解放された瞬間であった。 酒呑童子の全華がこの混沌とした時代の救世主として希望になったのは、その能力も一因だった。己の体躯から黄金を創造できる能力。圧倒的な強者が生み出す黄金の光は、暗い時代に疲弊した妖怪たちの心の希望の象徴となったのだ。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 妖全華国の国民となった百又は生活が激変した。妖全華国では妖怪の役割が分けられており、弱小種族にも生きる術が用意されていた。勿論、戦いが得意なものは国の運営を行う王直属機関の近衛妖兵団に入団し妖兵となっていた。百又が見た翡翠の装束と銀色の鎧を着ていた者たちだ。 弱小種族や戦いを好まない妖怪たちは、戦い以外の仕事を選ぶことができた。飛行龍は荷物の運搬屋として仕事があり、河童は水を操り街に水を届け、化け狸は布で服を作り店を構えていた。 妖全華国の妖怪たちは皆笑顔で、この国が強者に守られて自由で豊かに暮らせる場所であることを示していた。 百又はこの国で、魚屋として暮らし始めた。当たり前のように家があり、食事がある。あの地獄の日々が嘘かのような、素晴らしい暮らしだった。 街には妖兵が見回りに来ることがあった。稀に全華王と緋色の外套を纏う狼男の少年が来る時にはいつも周りに妖兵や街の人々が溢れ、各々が感謝を告げ何かを捧げていた。 この国で暮らす内に、百又はあの時の狼男の少年が凄く偉い人であることを知った。彼が纏っている緋色の外套は、妖兵団の最高妖兵である総大将の証らしい。そして名前も知ることが出来た。朔狼(さくろ)、と言うらしい。 彼と王が街に来るたび、百又もあの日のお礼を言いたいと人混みに混じり話しかけようと頑張った。しかし日に日に国は発展し、国民は増え、二人への距離はどんどん開いていった。 しかし、百又は諦めが悪かった。 どうしても、もう一度あの狼男の少年___朔狼に会ってお礼を言いたい! 当時十歳であった弱小妖怪である百又は、朔狼に会うため妖兵を目指すことに決めた。 当時はまだ国が発展途上であるため練兵校は無く、何歳でも妖兵入団試験を受けることが出来た。しかし百又は弱小妖怪。七年連続で入団試験に落ち、修行を重ねる日々だった。そもそも化け猫では戦いに関する全ての能力が足りなさすぎたのだ。妖兵の強さを表す妖力の四要素の内、体力は妖怪の中でも下の方、顕在力も同じだ。何とかなりそうな知力に集中して勉強したが、元から頭が良い妖狐などには勿論及ばない。 だが、百又は精神力がずば抜けていた。生い立ちもあり、耐え抜く精神がかなり鍛えられていたのだ。 八度目の正直で漸く基準に届いた時、すっかり顔馴染みになっていた試験官たちは泣いて喜んでくれた。百又は十八歳になっていた。 しかし、百又は妖兵になり絶望した。なんと総大将である朔狼に会うには上級兵である宮殿仕えにならなければいけないらしい。入団試験を終えたすぐ後から、百又は宮廷試験対策をはじめた。 百又は不屈の精神力で月日を重ね、宮廷試験に合格した。 百又は二十二歳となり、朔狼に会いたいと思ってからもう十年以上は経っていた。しかし想いは薄れるどころか、年々強く堅いものになっていった。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ やっと宮殿仕えとして出世した出勤初日。 「はあー、薔薇宮殿での勤務とか緊張だにゃー...初日は兎に角やらかさないようにしなきゃ!」 と気合を入れ直して宮殿に入った瞬間、門番として見たことがある妖怪がいた。牛魔王だった。 「にゃああああ!!!」 百又は思わず叫んでいた。 「ンモ?!何だいきなり?!」 「牛茶(ぎゅうちゃ)、新人をいじめるなよ!」 「虐めてねえギュウ!この新人が俺様を見た途端に叫び出したんだギュウ!」 (この声は!!!) 叫ぶ百又と焦る門番の牛魔王。 そこに牛魔王を諌めて現れたのは、鈍い銀灰色の毛並みの髪と尻尾、褐色の肌を持つ青年。百又が十年以上片時も忘れなかった、光を感じる透き通るような声。 そう、朔狼だった。 十年以上ぶりに近くで見る朔狼は、少年では無く凛々しい立派な青年となっていた。当時は少年には重々しかった総大将という肩書きが似合う堂々とした姿は数千人の妖兵の頂点として相応しい姿だ。 「どーせお前が悪いことしてた時代になんかしたんだろ、謝っとけ!」 「ギュウ...新人、過去の俺様が悪かったな!」 「牛茶は昔は悪い奴だったが、見ての通り今は改心して妖兵になったんだ。まあ最初は調子こいて凄かったんだがな!良い子になったなあ!」 「総大将うるさいギュウ!」 あの牛魔王の頭を撫でて親しそうに話すその姿から、朔狼の人柄の良さが伝わってきた。牛魔王も口答えはしているものの満更ない様子で懐いており、年々妖兵が増えてるのは彼に惚れて志望する者が多いという話も頷けた。まあ、自分もそうであったし。 「で!そうだオレは新人の化け猫、えっと百又だっけか?に用があったんだ!」 「にゃにゃ!?総大将様がワタシに?!」 (にゃーーーーー!!!名前呼ばれちゃったにゃーーーー!!!) 「ああ!王が君をお呼びなのだ!」 「え?!全華王様が?!」 初代国王全華は厳粛で有能な王として有名であった。秩序が無かった妖怪の世界に社会を作り、そのカリスマ性で個性的な妖怪たちをまとめ上げ国を建国した偉大な王である。 その王に、初日から、呼び出しを喰らった。 (あ、ワタシもしかして、クビとか...?) やっと朔狼に会えて喜びを感じた直後であったが今度は絶望に染まった。しかし、大人しくついて行くしか選択肢は無い。朔狼の後を歩いて王の元に向かう。 朔狼の足が黄金の巨大の扉の前で止まった。 「王、化け猫の百又をお連れしました!」 「入れ」 黄金の重厚な扉が開く。 扉を開けて王の姿を見ただけで、百又の身体が硬直した。今まで見たことも無い、高貴で荘厳なあまりに巨大な妖力。王はただ玉座に座っているだけなのに、威圧されてしまう。 呼吸が苦しくなる。 「ゼェッ...ゼェッ!」 立っているなのに息が上がる、全身の毛が逆立つ。 百又の様子を見て、朔狼が慌てて王に進言する。 「百又!すまなかった、驚いたよな!王、妖力の制御を!」 「む、失礼した。」 朔狼が王に制御を促して、百又はようやく威圧感から解放された。 「大丈夫か?百又」 「は、はい!失礼しました!」 「すまなかったな。王は威厳を保つために常に威圧のある妖力を出すのが癖になってしまっているんだ。」 「い、いえ...」 「では王、要件を」 「うむ...」 返事をしたものの、王は中々話し始めない。 (え?何?何にゃ、この間?) 朔狼は暫く王の様子を伺っていたが、その内諦めてため息をついた。 「オレから話すか?」 「頼む...」 「全く!オレは全華のママじゃないんだからな!」 「夜はママになってくれる「馬鹿!そういうことじゃない!」 (何これ?ワタシ今何見させられてるの? イチャイチャでも見させられるために呼ばれたの? 今のちょっとしたやり取りだけでも二人の仲がわかっちゃうこの空気何? ああああ、ワタシの積年の恋、あっという間に終わった...) 「待たせたが本題だ!百又は完全な獣の姿にはなれるのか?」 (失恋は兎も角、今は仕事! 切り替えなきゃ!) 「あ、はい!化け猫ですので可能です。」 「今変化してみて貰えるか?」 「承知しましたにゃ!」 ぼんっ! 朔狼の指示で百又は完全な猫の姿になった。 「こちらでよろしいでしょうか?」 「おお!完璧だ!素晴らしい!その姿のまま全華に毛を撫でさせてくれないか?」 「はい?」 (今、何て?毛を?撫でる?) 「全華は大の獣好きなんだ!だが妖力がありすぎて獣に好かれなくてな!代わりに百又やオレのような獣系の妖怪を撫でたいと煩くてな!」 そう言うと朔狼もぼんっ!と完全な狼に変化して玉座に向かい、百又も来るように促す。 「は、はあ...承知しました...」 言われるがまま玉座に向かい、座る王の膝の上にひょいと飛び乗ると、王がびっくりするくらいキラキラした目で見つめてきた。 「朔狼...猫が...膝に!」 「良かったな!」 「幸福だ...」 ナデナデナデナデッ 王は左手で猫になった百又を撫で撫でし、右手で狼になった朔狼を撫で撫でし大変ご満悦になった。 「いやあ助かった百又!宮殿仕えの妖兵には中々獣系の妖怪がいなかったんだ!今回君が配属になると聞いてすぐに声をかけねばと思ったんだ!」 「にゃはは!お役に立てたようで良かったです!」 (クビじゃなくて良かったーーーー!!!ま、思いっきり失恋はしたけどーーー!!!) 百又の宮殿仕え初日は、なんとか無事終了した。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ この日以来百又は時々、もふもふ要員としてひっそり全華の元に呼ばれるようになった。今日も全華に呼ばれたため王座に向かう途中、全華の弟とすれ違ったため敬礼して頭を下げた。 その時ふと、頭をよぎった。 (酒呑童子は、薔薇宮殿内に全華様以外にも弟様と妹様がいらっしゃるけど、狼男は朔狼様以外に見たことないにゃ...。) 薔薇宮殿内には何百人もの妖怪が日夜出入りする。殆どの妖怪は妖兵の中だけでも同じ種族が数人はいる。弱小種族の百又でさえ、自分と同じ種族の化け猫が商人として出入りするところを何度か見かけたことがある。 思い返してみれば、この何千もの妖怪が集まる薔薇宮殿で同じ種族を見たことが無いのは狼男くらいであった。 「オレ以外の狼男?」 「はいにゃ、見たことないにゃーと思いまして。」 全華にもふもふされながら、朔狼と百又が雑談をする。 「ああ、オレも国内で自分以外の狼男は見たことが無いな。数十年前一族ごと襲われたからかもしれないな。」 「一族ごと襲われた?!」 「狼一族は強すぎたんだ。一人いれば千人の妖怪を倒せる。狼一族の群れは他の妖怪にとって脅威だったんだ。数十年前、狼一族の群れは数十万の妖怪に襲われた。その時狼一族は散り散りになり、群れは無くなったんだ。それ以来、オレ以外の狼一族は見たことない。どこか知らないところにまだいるのかもしれないし、もう滅んだのかもしれない...。」 「オレ自身、襲撃の日以来連日数千の妖怪に襲われ続けた。何十日か続いたころ限界が来てな___ 朔狼は数十年前のあの日___ 全華とはじめてあった日のことを話し始めた。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 千年と十六年前、 まだ混沌の時代の頃。 朔狼は襲ってくる妖怪たちを倒し、倒し、逃げる日々を送っていた。 「ッハァ!ハアッ!」 何十日と続く休みの無い戦いの日々に、遂に息が上がる。 もう腕の感覚が無い、だが自分の周りには見えるだけでまだ数千の妖怪がいる。もうこれだけの妖怪を相手にできる力は残っていない。 (___これまでか) 朔狼はその場で膝を折り、死を覚悟した。 その時だった。 視界に入ったのは黄金。次の瞬間には、辺り全ての妖怪が吹き飛んでいた。 この混沌の世界でさえ荒くれ者たちが恐れ慄き、地に名を轟かせる最強の妖怪___巨角を持ち黄金を司るその妖怪の名は、酒呑童子。狼一族の中でも、自分たちと同等の力を持つ唯一の妖怪だと噂されていた。 気づけば朔狼の目の前に立っていたのは、大きな四本の角を持つ酒呑童子の少年のみになっていた。 酒呑童子の少年は朔狼の前にしゃがみ、顔を近づけてきた。 「その力に惚れた、我の物になれ」 「...ハァッ... ハァッ...オレは、女じゃないぞ」 「うむ、我には弟と妹がいる。」 「は...?」 「酒呑童子だが戦いが嫌いだ」 「何を言ってんだ...?」 「妖怪は力だけが全てじゃ無い。」 「...何が言いたい...?」 「だから国を作る」 「...国?」 「まず力で我に従える」 「あー...つまり...お前の弟と妹は酒呑童子だから強いけど戦いが好きじゃ無い。自分が国を作って戦いたくない奴も生きやすい場所を作りたい。その為にまず強い奴をみんな倒して従えるってことか?」 「うむ、だから我の物になれ」 「お前...考えは立派だが、説明が下手だな...」 (力以外のものに価値を見出している奴なんて、はじめて見た...。きっと世界を変えるのはこういう奴なんだろう。) 全華は、言った通り次々と強い妖怪を倒し従えていった。全華は喋りは下手だったが頭が良かった。国を作ると言うのも、適当に言っていたのではなく大昔の遺跡で「建国の儀式」という存在を知っていたらしい。 全華は数百の妖怪を従えた頃、建国の儀式を行い妖全華を建国した。そして妖兵という職を作り、戦う妖怪と戦わない妖怪を差別化した。妖怪に生まれたからといって誰もが戦いを好む訳では無い、という考えらしい。戦わない妖怪たちは戦う妖怪によって守られ、各々の妖力を活かした職を作り、国はどんどん発展していった。 全華は王としての才に溢れていた。人々は全華を敬い尊敬した。だが、王として必要な演説だけはサッパリだった。最初の建国記念演説では説明が下手すぎて朔狼が助け舟を出してから、すっかり演説係は朔狼になってしまった。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 「にゃははは、全華様って最初からそんな感じだったんだにゃー!」 「頭は良い癖に喋りだけはいつまで経っても上手くならねえよな!」 「うむ...」 百又にとって、日々忙しい二人と過ごせる僅かなもふもふの時間はとても大切なものであった。例え二人きりで無くても、朔狼と過ごせる時間は幸せだったのだ。 そんな幸せな日々を過ごしていたある日。百又は珍しく朔狼が王の書斎に一人でいるのを見つけた。 常に王と共に居る朔狼が一人でいるのを見たのは、宮殿仕え初日のあの日以来初めてのことであった。 あの日は色々ありすぎて、長年言いたかった朔狼への礼はまだ言えていなかった。 (朔狼様と二人っきりでお話しするチャンスにゃ!) 「朔狼様!」 「百又!どうした?何か用か?」 「あの、すっかり機会を逃してしまっていたのですが御礼を申し上げたくて。」 「御礼?」 「はいにゃ。朔狼様は覚えていらっしゃらないと思います。ワタシは十一年前、牛魔王に捕まり貴方様に助けていただいた化け猫ですにゃ。命を助けていただきありがとうございました。」 漸く、何十年も言えなかった礼の言葉を伝えることができた。 「あの時の女の子か!すっかり大きくなったなあ!それで牛茶を見て叫んで居たのか...すまない、配慮が足らなかった。」 「いえ!ワタシが言っていなかったので!」 (ワタシは十分すぎるほどやっていただいているのに、本当に優しい人だ。駄目だにゃあ...どんどん、好きになってしまうにゃ...。) 「朔狼様と二人になる機会が無くて、御礼を言うのがこんなに遅くなって申し訳ありませんにゃ。」 「確かにオレはいつも全華と一緒にいるからな!全華が嫁さんのところに行くようになるまで、殆ど一人になることってなかったかもな」 「にゃ?!?!全華様ってお嫁様いらっしゃっるんです?!」 「ああ、嫁さんが四人いるぞ!今全華は嫁に会いに行ってるんだ。王家は安泰だな!」 「いやー...失礼ながらあの全華様がよく怒られずに済んでますにゃ...」 「それが意外と上手くいってるみたいでな!」 ___百又に説明しながら、朔狼はあの夜のことを思い出していた。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 新月の夜。 全華が成人して暫くした頃。 いつものように寝室で触れてこようとする全華を制止する。 「何だ?」 「待て、今日は話がある」 「話?」 「そうだ、お前も成人したことだし王国のために妻を取れ。」 「朔狼が居る。」 「オレは子どもが産めない。」 「酒呑童子は男も孕ませる」 「お前じゃなくて、オレの問題だよ。狼一族は強さの代わりに子を成しにくい。お前は王だ。国を残していく為には子を遺す必要がある。」 「では毎日百回抱く」 「馬鹿!回数の問題じゃねえよ...」 「我が愛しているのは朔狼だ」 「知ってる。だが国の為だ。オレたちが苦労して作り上げた国を残すためだ。」 朔狼は少し背伸びをし、全華の首に手を回して口付けをする。 一度の軽い口付けの後、顔を離して月を宿したような深い蒼色の大きな瞳で真っ直ぐに全華の目を見つめて言う。 「全華、オレのために他の女を抱け。」 「...狡いぞ、朔狼」 「知ってるよ、お前がこう言えば聞くってわかってやってるからな」 「...我は妻を取る。」 渋々納得した全華に安堵する朔狼。 全華は「だが、」と言葉を続ける。 「我の一番は朔狼だ。愛も、信頼も、恩義も、全てお前に捧げる。」 「愛している、朔狼」 全華はその晩、何度も、何度も、 これから別の女も抱くことを拒絶するかのように、何度も、何度も朔狼を抱いた。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 時間にしたらたった数刻。 あの日の夜を思い出して少し黙った後。 「アイツ、あんな感じなのにやるよなあ...」 と朔狼が悲しそうに笑うから、百又はわかってしまった。 (この人は、心の底から王を愛しているのだ。ワタシなんて入る隙間が無いくらい、二人は深く、深く愛し合っているのだ。 この恋は、もう終わりにしよう。ワタシの心の中に封印しよう。 恋は叶わない。でも、それならせめて、少しでも愛する人の役に立ちたい。) それから、百又はひたすらに己を鍛えた。 朔狼のことを思えば、どんな痛みも耐えられた。 朔狼の役に立つと思えば、何でも出来た。 叶わない恋心と強い忠誠の想いが重なった精神力は弱者種族の少女を修羅へと変貌させた。 数年後、百又は第一部隊の宮仕兵になるくらいの力をつけた。モフモフ要因としてだけでなく、実力で朔狼を支える立場となったのだ。 百又は、朔狼の側に居られれば幸せだった。 しかし、幸せな日々は終わる。 丁度千年前___狼男が歴史から姿を消した日は刻一刻と近づいていた。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 次回、朔狼は嘘つきの狼男。 狐紅と仮面の男の因縁も明らかに! ▼▽▼▽▼▽▼▽ 以下本編がシリアスで辛すぎるので小ネタ。 【魅惑のスリット】 全華は変態である。 全華十三歳、朔狼十四歳で出逢った後。二人は建国の為に常に行動を共にしていた。 最強の妖怪と言えど思春期真っ盛りの十三歳!常に一緒に居て自分を理解してくれて、面倒をみてくれて、顔が可愛くて健康的なエロい身体をした一歳年上のえっちお兄さんの朔狼との日々はそれはもう刺激的であった!全華の性癖は朔狼によって完全に拗れた! 全華にとって一番愛する人も、一番信頼する人も、一番仕事しやすい人も、一番連携しやすいのも朔狼で、彼にとって朔狼は大切な大切な宝物であった。そのため、自身が責任を取れるようになる成人するまでは決して半端には手を出さず口付けや抱擁やもふもふとかだけで我慢し切った。 しかし!全華が成人した後は拗らせて我慢してた性癖が爆発!変態行動が止まらなかった!忙しい日々だが隙あらば口付けし抱擁した!服を剥いで生肌に触りまくった!一日最低でも四回は抱きまくった!しかしそれでも足りぬ! 全華は如何に短い時間でより朔狼の生肌に触れるかを考えた!そして彼はえっち衣装を着せる発想に達した!正に変態種族酒呑童子の祖先である! 朔狼は兵服を新調した。 しかし着てみて違和感!なんと新調した兵服の下履きには滅茶苦茶大胆なスリットが入っていたのだ!この世界では下着を履く文化は無いので、動いて上布が捲れた時に臀部と太腿がチラチラする魅惑の穴となっていた! 「何だこの穴!?」 「我が注文した」 もみもみ♡ 「ぎゃっ!」 すかさず全華はスリットから手を入れて朔狼の尻を直揉み! 「これでいつでも揉める」 「馬鹿!変態!」 【朔狼ママ】 「朔狼...」 「あの巻物なら袖机の上にあったぞ!」 「朔狼...」 「膝枕だあ?次の仕事までの間だけだぞ!」 「朔狼...」 「はいはい!モフモフしたいんだな!」 ぼふんっ ナデナデナデナデ♡ (全華様が話し上手じゃないの、朔狼様のせいでもあるんだにゃあ...) 【全華フルスロットル】 「呼ばれた時間より少し早めに着いたにゃ!二人っきりの時どんな感じなんだろ?ちょっと覗いちゃうにゃ!」 百又は二人のプライベートを見るのは気が引けたが、好奇心が勝ってしまいチラッと金の扉の隙間を覗いてしまった! 「朔狼...朔狼...」 すんすんっ♡モフモフっ♡すりすりっ♡ 「よーしよし、そろそろ百又が来るから程々にな!」 王は玉座で、膝に朔狼を乗せて髪の匂いを嗅ぎつつ尻尾を触りつつスリットから手を入れて尻を揉んでいた! イ、イチャイチャフルセットだにゃあ!!! 全華王様、全然喋ってないのに画面がうるさいにゃあ!!! (まだワタシの前で遠慮してた方だったんだにゃあ...)

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