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第14話
四本王14話 狼男の弦狼と三日狼
薔薇宮殿では、百又が王と第一部隊、薇呑と向蛇、雪椿、桜天を前にして狼男対策を話しはじめた。
「では、対策を説明しますにゃ。今回の目的はあくまで狐紅の奪還のみに絞るにゃ。狼男は倒すのではなく弱体化させて暫く動きを封じることにするにゃ。」
そう言って百又が取り出したのはお札が巻かれた手枷。
「これは妖狐の妖力が込められた妖狐の札枷。手か脚に付けられれば妖力を五十分の一まで抑えますにゃ。例え狼男であろうと二つ付けることが出来れば上級兵程度まで妖力が落とせるはずにゃ。今回は狐紅奪還が最重要任務、狼男は枷を付けるだけにゃ。」
百又は王と第一部隊の全員に妖狐の札枷を配る。
「それを前提として、まず双曲刀を持つ狼男対策ですにゃ。あの双曲刀には飛行龍の妖力が込められていて、持ち主が投げた後もかなりの距離を飛ばすことができますにゃ。訓練場を奇襲した時、おそらく投げて空中に止めておいて梅首と水蜘に当てたのでしょう。この双曲刀には水蜘の糸がついているので、逆にこちらが引っ張って相手を引き摺り出すことが出来るはずにゃ。包囲網が作りやすい西の森の入り口で罠を作って引き摺り出して対応するにゃ。狼男本人と双曲刀、最大三つの動きに同時対応が必要となるため第一部隊四人で連携して相手をするにゃ。具体的な包囲網の作成は菊龍が現場を見て判断してほしいにゃ。」
「御意」
「水蜘の付けた糸が何時バレるかわからないにゃ。双曲刀との戦いは包囲網の準備が出来次第、すぐに戦闘を開始するにゃ。」
「「「「御意」」」」
百又の指示後、第一部隊の梅首、朝魚、水蜘、菊龍は直ぐに動きはじめた。
「次に仮面の狼男の大剣対策ですにゃ。あの大剣には鴉天狗の妖力が込められていて、剣を振ると風を起こすことができますにゃ。対策として懐に入り込めば敵は風は使えなくなりますにゃ。ですので、まずは最短距離で敵との距離を詰めてくださいにゃ。」
百又が取り出したのは、手のひら程の石の板。
「これはぬりかべの妖力が込められた簡易結界ですにゃ。妖力をこめると五尺ほどに広がり、物理攻撃を一撃耐えます。その後は破壊され目隠しの役割も果たします。このぬりかべの簡易結果を投げつけながら、距離を詰めて近距離戦闘に持ち込みますにゃ。そして近接戦闘の中で妖狐の札枷をつけます。ただ近づいた場合大剣としての戦闘は避けられませんにゃ。近づいた後は対大剣の戦いが想定されますので、黄金の大剣を創造できる王にお相手をお願いしたいですにゃ。」
「わかった。」
百又はぬりかべの簡易結界が纏められた小巾着を王に渡す。
「あの蹴りの狼男はワタシが相手をしますにゃ。」
「...良いのか?」
「あの速さについていけるのは国中でワタシくらいですにゃ。ご心配ありません、もう心に迷いはありません。」
「...わかった、お前は緋色の外套を託した我が最強の剣!信じるぞ!」
「お任せくださいにゃ!」
「しょーちゃん!総大将!ぼくたちも行きます!」
「駄目だ、向蛇たちは宮殿で薇呑姉様に護衛してもらうんだ。」
「しかし...僕たちも狐紅さんを助けたいんです...!」
「気持ちはわかるにゃ、でもハッキリ言って足手纏いにゃ。」
「‥‥ッ!」
「大丈夫よお♡薔鬼くんと百又くんはこの国最強の戦士よ、任せなさい♡」
「狐紅は必ず我が取り戻す、安心して待っていてくれ」
王は桜天の手を握り、向蛇と雪椿を見つめる。
「ご武運をお祈りしております...!」
「行くぞ百又!」
「御意!」
王と百又は西の森へ向かった。
▼▽▼▽▼▽▼▽
王と百又が宮殿を出発した頃、第一部隊は西の森での包囲網を完成させていた。
狼男の双曲刀に付けていた糸が動き、水蜘が伝える。
「双曲刀の狼男が動き出した!僕たちが西の森に居るのがバレたんだ!糸を引っ張ってこちらに誘導する!三十息後に戦闘開始だ!」
「「「御意!」」」
号令を発し、水蜘が糸を思い切り引く。
▼▽▼▽▼▽▼▽
弦狼が感じ取った追手を迎撃する為、二人の狼男は月影宮殿から出て森の中を移動していた。
ふと、弦狼は隣の三日狼の違和感に気づく。
背中に微かに光る何かがある。
「三日狼、お前何かつけられたな」
「ああ?何だって...オオッ?!?」
三日狼は背負う双曲刀ごと何処かへ引っ張られる。木の間を飛んで移動していたため踏ん張れず、そのまま引っ張られて弦狼の視界から消えてしまった。
「チッ、分断されたか」
三日狼が引っ張られていったのは、自分が追手を感じ取った森の入り口の方だ。わざわざ三日狼を引っ張ったということは恐らく罠か何かを仕掛けている。そして敵はオレ達を分断して罠にかけている間に、あの狐の嫁でも取り返しに来るのだろう。
その場合、自分がすべき行動は月影宮殿に追加で来るであろう他の追手に対応することだ。
弦狼は月影宮殿へと引き返しはじめた。
▼▽▼▽▼▽▼▽
王と百又を見送った後、向蛇と雪椿、桜天は王族専用の応接間にいた。
「ぼくやっぱり行く!」
「駄目だ!足手纏いと言われただろう!事実、私たちは襲撃された時、狼男に全く反応出来ていなかった...。」
「僕、狐紅さんのこと好きです...。」
「せ、雪椿...?」
「桜天さんのことも、薔鬼様のことも好きです。でも、やっぱりむろちゃんへの大好きは特別なんです。むろちゃんじゃないと話せないことがある。むろちゃんだから、救われたことが沢山あります。」
「せっちゃん...」
「僕にとってのむろちゃんは、狐紅さんにとって桜天さんだと思うんです。桜天さんじゃないと、救えないところがあるかもしれません。」
「しかし、私たちの妖力では話にならない...」
「あ!じゃあ!戦うんじゃなくて、逃げるのはどうかなあ?!」
「逃げる?」
「うん!戦闘は力不足だとしても、こもちゃんを探して、見つけて一緒に逃げるくらいなら出来るかも!ぼく、体力だけはあるから三人くらい抱えて薔薇宮殿まで走り続けるくらいは出来るよお!」
「僕も攻撃を一撃耐えるくらいの氷の壁は顕在力で作れます...!確かに一人一人の妖力では太刀打ち出来ませんが、逃げることだけなら出来ることがあるかもしれません...!」
「向蛇...雪椿...」
「行こうよさっちゃん!」
「桜天さん...!」
「...そうだな!薔鬼王様と総大将には後から一緒に怒られるとしよう!」
向蛇、雪椿、桜天は飛行龍が飛び立つ高台へ向かった。
「貴方たち、行くんでしょ?」
「薇呑様!どうして?!」
飛行龍の高台には薇呑がいた。
「守られるだけの者など、王の横に立つ資格無し♡貴方たちの心意気を買おうと思ってね♡とはいえ、足手纏いで実力不足なのは事実よ♡」
そう言って、向蛇、雪椿、桜天に何かを渡した。
「土蜘蛛の妖力が込められた結界石と化け狸の妖力が込められた大風呂敷よ、時間稼ぎ程度には使えますわ♡貴方たちの一番の任務は生き延びること、命が危険だと感じたらすぐ引くこと、良いわね?」
「「「御意!」」」
「私様は宮殿の警護をしなきゃいけないから行けないけど、頑張りなさい♡」
薇呑に見送られ、向蛇と雪椿、桜天は飛行龍に乗り西の森へ向かった。
▼▽▼▽▼▽▼▽
第一部隊は妖兵団千部隊の頂点。数々の修羅場を経験してきた。
その第一部隊に、緊張が走っていた。
二十八...二十九...三十!
ガサッ!!!
三十息を数え終わると、森から水蜘の糸に引っ張られた双曲刀を持つ狼男の姿が現れた。引っ張る動線上に仕掛けておいた巨大な蜘蛛の巣に捉えることに成功する。
「来た!定刻通りだ、菊龍!」
「了解ネ、熱いの浴びせてやるヨ!」
菊龍は火吹き龍だ。狼男を捕らえた蜘蛛の巣に火を吹き着火する。
蜘蛛の巣のあちこちには菊龍の妖力で作った火花爆弾が設置されており、糸を伝ってどんどん引火し爆発していく。
爆弾が木と蜘蛛の巣を支えていた部分を破壊し、大きな蜘蛛の巣は捕らえた狼男ごと地面に落下する。地面に着くと同時に、落下点に待機していた梅首と朝魚が畳みかけ、妖狐の札枷を付けようと試みる。
だが、落下時に発生した土煙が晴れ、梅首と朝魚の視界に狼男の腕が入った瞬間、
ブォオオンッ!!!
二人に向かって双曲刀が投げられた。
梅首は首を伸ばして重心をずらしギリギリ避けられたが、朝魚の腹部に直撃した。朝魚の三十貫はあろう巨体が吹っ飛び森の木々を折る。
梅首は直ぐに戦闘体制に入り、狼男に三味線槍の連撃を浴びせる。しかし狼男は曲刀で連撃を受け止め、遂には槍先を左手で受け止められてしまう。
「へー!可愛いのもいるじゃん!」
槍が止められたのを受け、梅首は素早く首を伸ばす。首には、隠していた菊龍の妖力で作った煙玉。煙が広がり狼男の視界が奪われた瞬間に、梅首はスカートを翻して狼男の顎目掛けて脚を振り上げる。
が、途中まで振り上がった脚を狼男に掴まれ、地面に叩きつけられる。
梅首が叩きつける瞬間、狼男が梅首に集中する時を狙い菊龍と水蜘が乱入する。菊龍は火を吹き、その火で隠すように水蜘は蜘蛛の巣を飛ばして札枷を付けようとする。
しかし、背後から飛んできた何かに蜘蛛の巣がバラバラにされる。飛ばされていた双曲刀だった。
「アッチッ!」
菊龍の火に少し触れたのか、反射的に狼男は後ろに飛んだ。
(クソッ!あんだけ速い梅首の相手してた癖に、私の火にも反応できるのかヨ!)
ガサッ!
後ろに飛んだ狼男の背後には朝魚が隠れており、着地の不安定な時を狙って巨大な拳が狼男にふり下ろされる。
狼男は戻ってきた双曲刀を朝魚の拳に当てて対応しようとしたが、朝魚の拳は下に降りてこなかった。衝撃に備えて注視した拳の中から出てきたのは、菊龍が忍ばせた閃光玉。
閃光玉がカッ!と光り、拳を注視していた狼は思わず目を閉じる。
「ギャッ!」
「菊龍ちゃん!第二の包囲網いくわん!」
朝魚は狼男の身体をヒレで強くぶっ叩き、崖に向けて吹っ飛ばす。
第二包囲網は、崖に強打される瞬間を狙い崖に設置した火花爆弾を爆発し、岩が落下するというものだった。
しかし、菊龍は火花爆弾に着火しなかった。崖に強打されたのは朝魚だったからだ。
(アイツ...!ヒレでぶっ叩かれた瞬間に左腕でヒレを掴んで、逆に朝魚さんをぶん投げたのかヨ...!)
蜘蛛の巣で捕らえ火花爆弾でダメージを与えた後に梅首と朝魚の追撃を加える第一包囲網、それに加えて梅首の槍の連撃からの火炎攻撃と蜘蛛の巣の追撃。
そして第二包囲網の朝魚のヒレビンタ。
現時点でかなりの攻撃を加えているにも関わらず、長髪の狼男は指先の火傷程度しか傷を負っていなかった。
これが、一人で国を滅ぼすことが出来るほどの妖怪の力なのか...!
(梅首の時も、朝魚さんの時も、いくら視界を遮ろうとあの腕力で捩じ伏せてくるヨ...あの腕を封じないと駄目ネ...!)
「水蜘!第三の包囲網行くヨ!」
今度は菊龍自らが狼男に向かい、火花爆弾を投げつける。バチ!バチ!と火花が散る。
「さっきからずっと茶々入れやがってた手妻師はお前かよ!」
「そーヨ!こちとら君みたいな馬鹿力は無いんだヨ!」
しかし、狼男の力が強すぎて防戦一方になる。しかも双曲刀まで避けなければいけない。手持ちの火花爆弾で軌道をずらすので手一杯だ。
「チッ!当たらねえ!逃げ足だけは速えな!」
兎に角逃げるしか無い。逃げながら、火花爆弾を投げるを繰り返す。
あの曲刀はあの巨体の朝魚さえ吹っ飛ばすのだ。
(私なんか、一発食らうだけで骨バキバキなるヨ...!)
▼▽▼▽▼▽▼▽
王と百又は森の入り口で第一部隊と双曲刀の狼男が交戦しているのを横目に見た。
前は結界があって見えなかった森の入り口からは見えなかった筈の月影宮殿が見えるようになっている。狼男たちが結界に何かしたのだろう。
そのまま通り過ぎ、森の奥へと向かっていた。
月影宮殿が見えた!と言うところで、
ドカッ!
「二度目は通じないにゃ!」
「やるじゃん」
百又は宮殿近くに潜伏していた短髪の狼男の回し蹴りを、今度は受け止めた。
「ワタシが足止めします!王は宮殿へ!」
「頼んだぞ!」
「一人で良いのかよ?」
「ご心配ありがとう、こう見えてワタシ強いのにゃ」
最初に動いたのは、狼男。
眼前から消えたと思った次の瞬間、百又の眼前には回し蹴りが唸りを上げていた。
百又は紙一重で避ける。
狼男は止まらない。そのまま体を回転させ、勢いを殺さず二撃目を繰り出してくる。
反射的に頭部を守ろうとした瞬間、腹部に衝撃が走り大木に叩きつけられた。
「ッぐっ!」
口から吐血する。内臓が傷ついたのだろう。
狼男はそれでも追撃を辞めない。
また蹴りが来る!
しゃがんで避けると、蹴られた大木はメリメリメリッ!と音を立てて倒れる。
百又は低い姿勢から回し蹴りを繰り出し、狼男の軸足を直撃する。が、びくともしない。
(硬すぎる...!)
(体格もリーチもこちらが不利...!正面戦闘は避けるにゃ!)
跳ねるように横へ飛ぶ。木々を蹴り、さらに加速。空中から蹴りを浴びせる。
百又の最大の武器は、猫特有の柔らかくしなやかな肉体と、軽い身体を活かした超速の蹴りである。千年の研鑽を積んだ蹴りは、地面の狼男向けて木のしなりと百又の身体のしなりが組み合わさり加速を重ねる。
音を置き去りにする程の連続の蹴りを狼男に間断なく打ち込む。
加速が重なった攻撃に流石の狼男も堪らず、初めて呼吸が乱れ脚がもつれる。
(地面にいると狙い撃ちにされる...!)
狼男は姿勢を低くし地面を強く蹴り、自分も木々に跳び乗る。
木々の間で、乾いた音が連なる。
どれくらいの時間、蹴り合いが続いただろうか。
百又はもう限界に近かった。
腕は痺れ、脇腹は鈍く痛む。呼吸も浅い。
狼男も無傷ではなかった。
(この女...精神力が強すぎる...!
こんだけやっても戦意喪失しねえのかよ...)
それでも百又は攻撃の脚を止めない。
(仕方ねえ...アレを出すか...)
百又が跳び、狼男は回し蹴りで迎え撃つ...と思われた。
が狼男は脚を引いた。
そして、百又の脚に短剣を突き刺した。
「ッニャッゥ!!!」
百又は堪らず、近くの木に身体を預ける。
「ハーッ、ハーッ!アンタみたいな、心が強い奴はこうして、ハーッ、止めるしかねえんだよ」
疲れて満身創痍の肉体に刺し傷、もうあの女は戦えないだろう。
弦狼は他の追手を探しに行くかと移動しようとするが、違和感に気づく。
あの女の傷が、治っている。
「にゃはは...この短剣の使い方までは知らなかったみたいだにゃ...!」
「何だと...!?」
「この短剣には人魚の癒しの妖力が込められているにゃ...」
「何でてめえがそんなこと知ってる」
「これは___」
▼▽▼▽▼▽▼▽
___千年前
「全くお前は!こんな高価なものを大量に買うんじゃない!」
「うむぅ...」
「朔狼様、どうされましたにゃ?」
「百又!全華が高級な妖力銀剣を一気に二本も贈ってきてな!全く!オレには鴉天狗の大剣があるんだから足りてるんだ!勿体無いだろ!」
「にゃ?!妖力銀剣って、一本で飛行龍が買えますよね?!」
「朔狼が、欲しがっていたから...」
「欲しいとは言ってない!「鴉天狗の武器職人に飛行龍の双曲刀と人魚の短剣を見せてもらった」話をしただけだろ!」
「朔狼は使ってみたいと言っていた」
「馬鹿!言ったけど買えって意味じゃねえよ!」
「全華様は本当やる事が極端というか豪勢というか、王様って感じだにゃ...」
「朔狼...嬉しくないのか?」
「う、まあ...やりすぎだが、お前の気持ちは伝わった...ありがとう、大切に使う。」
「うむ...!追加で買「馬鹿!」
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(愛するあの人、あの人の愛する人、
二人を死なせてしまったのはワタシが未熟だから、守れなかったのはワタシに力が無かったから___だからこの千年間力をつけた!)
人魚の短剣は、百又の心に再び心を灯した。
「この剣は我が国の宝にゃ!!!」
百又はまた蹴りを繰り出す。
狼男も蹴りで受ける。
互いの蹴りが互いにぶつかり合う。
肌の一部が破れ血が舞う。二人とも呼吸が途切れ途切れになる。
「ゼェーッ!ゼェーッ!」
「ゼェーッ!ゲホッ、ゼェーッ!」
互いに身体はとうに限界を超えている。
二人は木々の間を縫い、空中で蹴りを交える。
辺りの木々は蹴り倒され、二人の戦いは意図せぬままに徐々に月影宮殿に近づいていた。
▼▽▼▽▼▽▼▽
菊龍は、動き続けて息が上がりはじめる。そして遂に、行き止まりまで狼男に追い詰められてしまった。
「ゼェーッ!ゼェーッ!」
「お前、偉そうにしてた割に可愛こちゃんや半魚人より弱いじゃねえか!」
「ゼーッ!ゼェーッ!そーヨ、私はあくまでこういう、ゼェーッ!、狡賢い...担当ネ」
菊龍が火花爆弾に着火し、火花が散る。辺りの木々が爆弾に薙ぎ倒される。当然狼男は避けようとするが、左手が動かない。
(何だ?!糸か?!)
だが蜘蛛の糸はつけられていない。
バキバキバキバキイッ!!!
倒れて来る木には蜘蛛の糸を飛ばす罠が仕掛けられ、狼男を囲うように糸が飛ぶ。
「クソッ!」
狼男は動く右腕と脚でかわしていく。
「本命は、こっちだよ」
水蜘が大量の蜘蛛の糸を、動かない左腕に向けて飛ばした。
バキバキバキバキイッ!!!
ドオオン...
辺り一面の木が倒れ、土埃が晴れた。狼男の左腕は、菊龍の想定通り大木に張られた水蜘の蜘蛛の巣で固定された。
「クソッ取れねえッ!テメェ!オイラの腕に何かしやがったな?!」
「ゼェー...!君は、全ての、動きが、利き腕の左手起点なのヨ...!だから、左腕だけを、止めに行ったのヨ...!逃げてる時、ゼェー!投げつけた火花爆弾に電気を組み込ませたネ...!ゼェー!予め帯電させた、ゼェーッ!この場所、では数秒くらい筋肉の動きを止められる効果が出るネ...!」
水蜘の糸は土蜘蛛の妖力が込められているため、並大抵の力では外すことは出来ない。妖狐の札枷を付ける絶好の機会が訪れる。
「枷を付けるのだけでも一苦労だね...」
「ゼェーッ!ゼェーッ!十個くらいつけてやるネ!」
菊龍は息を整える為にその場に座り込み、水蜘は妖狐の札枷を付ける為に狼男に近づく。
「クソッ!!!」
三日狼は、脚を踏ん張り腕に力を入れた。
メリメリメリッ!!!
腕が固定されてる大木が引っこ抜かれる。
「そんなのあり?!」
三日狼は手に蜘蛛の糸がついたまま、大木を水蜘目掛けて振り回した。虚をつかれた水蜘の体は宙に舞い崖に強打され、そのまま地面に落下した。
三日狼は大木ごと移動し、落ちた曲刀を拾い蜘蛛の糸を切り離す。
「やってくれたなア?!手妻師さんよお!」
蜘蛛の糸を捨て、三日狼は菊龍を睨みつける。
一瞬での形勢逆転。菊龍は絶望した。
仕掛けた三つの包囲網が全て通じなかった。
いや、正確に言えば三つ目は機能していた。しかし、力づくで突破された。
枷を付けるどころか、こちらは自分以外はもう碌に動けない。自分も息が絶え絶えだ。
「ハハハ、化け物ヨ...」
菊龍が次の一手を考えはじめた瞬間、森全体に巨大な呪いが広がった!
ゾゾゾッ!!!
全身に悪寒が走り、毛穴が開き嫌な汗が吹き出す。頭が警鐘を鳴らしているのがわかる。
三日狼はこの妖力に覚えがあった。
(ンだこれ?!大兄貴の妖力がでけえ気持ち悪ぃ何かと混じってやがるッ!大兄貴に何かあったのか?!)
「大兄貴!!!」
双曲刀の狼男は、月影宮殿に一目散に駆け出した。
菊龍は緊張の糸が解け、その場に倒れ込んだ。
だが、あの呪いは何だ?!嫌な予感がする!!!
(まずは治癒ができる朝魚さんを人魚の真珠で回復するヨ...!すぐに月影宮殿に向かわねば...!)
その頃、月影宮殿では王と仮面の狼男の戦いが繰り広げられていた。
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次回!非童貞、童貞にマウントを取る!
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以下本編がシリアスで辛すぎるので小ネタ。
小ネタ
【王様のお手伝い】
王はこの溜まった公務を処理する必要があり、狐紅と桜天を連れて王専用の書斎に来ていた。
緋色の柔らかな長椅子に王、桜天、狐紅の順で座り、いくつもの巻物を机に広げてあーだこーだ話をしている。
「我は東城門改築のこの予算は妥当だと思うぞ!」
「王サマ甘すぎ〜!あのね〜確かに全体の予算感だと前年より三割増しは妥当に見えるかもだけど、内訳を見てみなよ〜?この人件費の上振れは盛ってるって〜」
すりっ♡
「そんなに盛っているか?」
「過去十年分実績と照らしてみなよ〜。せいぜい二割ってとこだね〜三割は過剰〜。」
「うむ!本当だな!狐紅は計算が早いなあ!」
すりっ♡
(演算水晶も使わずにけ、計算が早すぎる...!この十桁以上の数字を暗算したのか?!それに歳によって纏め方が違うから比べる十年分の数字を見つけるだけでも精一杯だぞ...?!)
王と狐紅の会話に、桜天はついていけない。
「では二割で王印を押す!次は治癒の館の拡充案だな!」
(え?!もう次の話に移るのか?!)
「二箇所でいいでしょ〜」
「新設三箇所で申請が出てるぞ?申請理由に特に違和感も無い!」
すりっ♡
「二箇所はね〜、でも三箇所目の申請巻物の内容をよく見てよ。新設施設の大きさに対して、申請治癒具の数が多すぎ〜。つまりこれは本音は施設じゃなくてこの治癒の館の治癒兵を増員してくれって言いたいんだよ〜。人員申請は軍略兵管轄だから申請に時間かかるからこっちも一応出したんじゃ無い?水晶で申請中の巻物確認したらやっぱりこの部隊の軍略兵から治癒兵増員申請出てた〜。」
狐紅は水晶で王に何かを見せている。
「うむ、成程...では新設は二箇所は承認、残りの一箇所には部隊を追加増員で対応しよう!」
「その方が総額は三割ほど圧縮できるよ〜」
すりっ♡
「狐紅は資料を探すのも早いな!」
(待て待てどこの数字を計算したんだ?!)
桜天は情けなさが限界に達し、遂に進言した。
「薔鬼王様、狐紅、ちょっと良いでしょうか。」
「どうした桜天?」
「恥ずかしながら私はお二人の話について行けておりません...。私はお役に立ちません...。別の場所で巻物整理でもいたします。」
「駄目ッ!桜天は真ん中に座って尻で俺たちのやる気を出す大事な仕事してるんだから!」
「なっ!さっきから尻を触ってくるのはわざとだったのか!」
「そうだぞ!この尻が無ければ頭が回らん!」
王は手に持っている巻物を置き、桜天の両手を己の両手で掴む。
「我は桜天にこの場にいて欲しい、嫌か?」
そして己の顔面の良さを最大限に利用し、桜天の目をじっと見つめた。桜天の顔がみるまる真っ赤に染まる。
「し、しょうちしました...///」
(へ〜、桜天こういうのに弱いんだ〜また俺もやろ〜っと!)
【王様のお手伝いしてない子たち】
桜天と狐紅が王の公務を手伝う中、向蛇と雪椿はデートに行っており、帰宅した。
「ただいまあー!お土産買ってきたよお!」
「おかえり!向蛇と雪椿はどこに行ってきたんだ?」
「小豆洗いの甘味処で巨大小豆餅を食べてきました。」
「お〜っきな一個を食べっこしたんだよねえ!」
「うぬ?!?あーんしあっこしただと?!我も入りたかった!!!何故我は行けなかったのだあああ!!!」
「仕事されてたからですよ」
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