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第16話

四本王16話 狼男の真実 「酒薔(しゅば)様にゃ...?」 仮面の下から出てきた男の顔を見て、百又が呟く。 「ハハハッ!その名をまだ覚えていたのか百又、よくもオレ様の弟を可愛がってくれたな」 「酒薔...?!亡くなった兄上のお名前...?では、お前は...!」 「そうだ、オレ様は酒呑童子。オレ様より優れた四本角のお前に全て奪われた男だ!」 「ゼェッ!嘘だにゃ!ゲホッ、酒薔様のお姿が消えた、あの日!何年も、ゼェ、国を挙げて探した、にゃ!ゲホゲホッ!でも、酒薔様は見つからなかった!」 狐紅は、問答の様子を見て察する。 (そうか。建国の儀式で使っていたあの角は、仮面の男本人のものだったのだ。) 「ハハハッ何を言っている?普通は立ち入らない、隠された見つからない場所があるだろう?」 「ゼェッ...まさか...この...場所...?!西の森の月影宮殿にいらっしゃったのですか...?!」 「そうだ、強い呪い故に立入を禁じられた西の森の月影宮殿!そこは初代国王全華が封じられた最強の呪いを持つ宮殿だった!結界が張られ、外からは見えぬこの場所は秘密裏に準備を進めるには絶好の場所だった!」 「もしかして...」 「そう、オレ様は二十年間。この場所で復讐の機会を伺っていた!」 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 二十一年前。 薔薇宮殿の王庭では、酒呑童子の子どもが三人追いかけっこをして遊んでいた。 「薇酒兄様!薇呑姉様!遅いですよ!」 「ゼーッゼー...待ってくれよ酒薔ー☆...ちょっ、早すぎるぞ...★」 「ゼーッ、ハー...ちょっと、休憩いたしましょう♡」 「オレ様はまだまだ走れますよ!」 「馬鹿ッ★僕様と薇呑が無理なんだよ☆」 「酒薔兄様の基準は、私様たちにはキツイですわ♡」 「何を仰るんです!オレ様たちはこの国を背負う酒呑童子ですよ!鍛えすぎて悪いことはありません!」 「遊びの追いかけっこくらい普通にやろうぞー☆」 「そうですわ♡薇酒兄様は訓練をサボってますが、酒薔兄様と私様はちゃんと訓練してますもの♡」 「オレ様はあれだけでは足りません!もう少し走ってきます!」 「真面目だなー...★」 この頃の王家、酒呑童子一族には三人の子どもがいた。 一本角でサボり癖のある長男の薇酒八歳、三本角で真面目な後継者である次男酒薔七歳、二本角で適度に真面目で不真面目な紅一点長女薇呑四歳。 三本角で後継者の酒薔は王家に生まれたことをとても誇らしく思っていた。そして、甲斐性無しの兄と自分の世界が強い妹のことは仲良くいつも遊んでいたが頼り甲斐は無く、自分がしっかりせねばと思っていた。 「オレ様も、初代王全華のように全て一人で熟す威厳のある立派な王になるんだ!」 幼い身の上だが、三本角である自分が王になる事を疑わず己を律し毎日研鑽に努めていた。 ある日、そんな未来への希望に溢れた少年を狂わせる予言が一つ。 「ご報告します!麒麟の予言水晶に後継者の予言が出ました!四本角の男児です!」 母の一人が妊娠したらしく、胎児の角の本数を見るため予言水晶が使われた。酒薔も弟か妹が増えると喜び、予言を聞くために応接間に使う途中だった。 (四本...角だと?) 初代王以来生まれなかった四本角の予言に薔薇宮殿内は歓喜に包まれた。しかし、酒薔はただ一人この事実に絶望した。 (オレ様は、王では無くなったーーーー) 何故、何故よりによって自分の弟で、千年も存在しなかった筈の四本角などが産まれるのだ___。 絶望の中で思い出したのは、西の森の話。 大昔の強い呪いがかかっているため、西の森に近づくことは禁じられていた。 (あの強い呪いを解けば、オレ様の方が優れていると証明できるかもしれない___!) 少年は一人、誰にも言わず禁じられた西の森に向かった。 西の森の前に着くと、禍々しい雰囲気が立ち込めていた。立入禁止の木簡が置かれ、結界が張られている。まだ森の前なのに立っているだけで気分が悪くなり足がすくむ。身体は小刻みに震え、本能的に帰還した方が良いと悟る。 (でも、真の王なら引かないはずーーーー!) 少年は覚悟を決めた。 酒薔が取り出したのは麒麟の解水晶。結界を破壊できるが、一度使うと壊れてしまう。しかし結界を一部、それも短時間解除する程度で有れば何度も使える。結界に子ども一人が通れるくらいの小さな隙間を開ける。 手を入れただけで中の闇の異常さがわかる。だがもう少年は止まらない、一時解除が解ける前に少年は呪いの森に一人入って行く。 森に入ると景色が変わった。 (何だ?さっきまであんな禍々しい妖力の塊は無かったぞ) 禍々しい妖力の中心にあったのは、呪いがかかった宮殿。 (何故こんな巨大な建造物が?森の外からは見えなかった) 宮殿に向かおうとした瞬間、 ガッ! 少年は何かに襲われた。 あまりの衝撃にその場に屈む。屈んだ瞬間、何かは自分に素早く近づき頭を狙ってきた。 間一髪、顔面の手前でそれを掴んだ。何かの脚だった。掴んだ足を下にずらし、何かの正体を確認する。 鈍い銀灰色の毛並みの髪と尻尾、褐色の肌を持つ自分より幼い少年。 巻物の中でしか見たことが無い、強すぎるが故に大昔に滅んだ妖怪。 「狼男...?」 驚いていると、また背中に衝撃が走る。今度は後ろから襲われた!すぐに空いているもう片方の手を回して襲ってきたものを掴む。掴んだ手を前に回すと、もう一人目の前の狼男よりも更に幼い狼男を捕まえていた。 「何故狼男が生きている?」 「ああ?!うっせーな肉がよお!食わせろお!」 幼い方の狼男がまだ暴れるので腹に一発、気絶しない程度に蹴りを入れる。 「ぐえっ!」 「やめとけ三日狼、コイツオレたちより強え」 目の前の蹴りを入れてきた狼男が声をかけると、幼い方の狼男は不満そうながら大人しくなった。 目の前の狼男の方が問答ができそうだ。 「何故狼男が生きている?お前たちは何故ここにいる?」 「両方知らん。オレたちはただ食い物を探してただけだ。」 巻物で読んだことがある。狼男は大昔に群れで暮らしていた時の名残で秩序を重んじている。戦いで序列を決め、自分より強者と認めたら忠誠を誓い付き従うらしい。素直に答える様子を見ていると先程の一連で、目の前の狼男は自分を強者と認めたのだろう。 ___酒薔の心にざわりと野望が湧き立つ。 伝説の強さを持つ狼男が二人もいる。自分を含めれば酒呑童子が三人もいるようなものだ。まだ自分たちは幼い子どもだが、大人になれば国を滅ぼせるくらいの戦力だ。 「知らんならもう良い。食べ物が欲しいならこんな獣が居ない森から出た方が早いぞ」 「この森からは出られない」 「何だと?」 「オレたちも何度も試した、だが数年前この森に迷い込んでから出られたことは一度も無い」 なるほど、呪いのせいと言うことか。あの巨大な宮殿を調べるか...。とはいえその前にこの二匹を懐柔しておいた方が良いだろう。 酒薔は近くの木の皮を剥いで何かを作りはじめた。 「何してんだ?」 「森の呪いが届かない範囲には鳥が飛んでいる。鳥を狩る。」 「ハア?!馬鹿じゃねえの?!ンナことできるわけねぇだろ!」 簡易的な狩の道具が出来たのか、酒薔は釣りの要領で上空に向かって罠を投げた。 酒呑童子の力で投げられたそれは百尺以上は上空に上がり、鳥を捕らえた。数回繰り返し、子ども三人が腹を満たせるくらいに数匹鳥を狩る。 「ほら、肉だ。食え。」 相当腹が空いていたのか、狼男たちは夢中で鳥を食べはじめた。 「お前スゲーな?!」 自分を見る目が変わった。どうやら幼い方の狼男も自分を認めたようだ。 腹も膨れたので、宮殿を調べることにする。 「着いて来い」 宮殿の周りは呪いに満ちており、立っているだけで息が苦しい。おそらく、並の妖怪なら今気絶しているだろう。後ろの二人が特に変化なく平然としてるのを見ると、さすが伝説の狼男と言ったところか。 宮殿の中に入ると、大広間の中央に祭壇があった。あの様子ではまだ呪いがかかったままだ。何代目かの王が建国の儀式をしようとして、失敗したのだろう。祭壇の前に、酒呑童子の遺骨が落ちている。たが失敗したものの呪いは大分弱まっているようだ。 酒呑童子の遺骨はわかりやすい。酒呑童子の角には強い妖力が込められているため、故意に破壊しない限り何千年でも残り続けるからだ。 何代目の王か調べようとして近づいた酒薔は驚いた。遺骨には角が四本ある。 この遺骨は公には死因が不明だった初代国王、全華王のものだ。 全華王のすぐ側にもう一人分頭部が失われた遺骨があった。そして遺骨の主が使っていたと思われる銀剣が三本。大剣と、双曲刀と、短剣。 王がこれだけ近くに居ることを許したと言うことは、相当に近しい臣下の誰かのものであろう。 大広間の奥の部屋に進むと図書室があった。視界全てを埋めるほどの巻物、巻物、巻物。 一本手に取り広げて見て驚いた。 「この巻物は...?!」 それは見たことも無いような呪い専門の巻物だった。薔薇宮殿にもこのような巻物は無い。よく見ると他の巻物も全て呪いについて書かれたものだった。この宮殿は呪いに特化した施設だったようだ。巻物の中の記載を見て、この宮殿の名前は月影宮殿ということが判明した。 図書室の横には倉庫があり、建国の儀式用に用意された様々な血液が保管されていた。 それだけでなく、封印や結界用の呪具まで保管されていた。 ___酒薔の中で野望が現実味を帯びていく。 最強の妖怪全華王を取り込んだ呪いの宮殿、建国の儀式を行うための呪いの知識を記した巻物、絶大な妖力を持つ自分と狼男が二人___。 妖全華よりも強大な国が、作れるのではないか___? この場所は外界から遮断され、誰にも悟られずに建国の準備を進めるのはうってつけだ。 妖全華国の王になれないのならば___新しく国を作ればいい。 酒薔は振り返り、後ろの二人に声をかけた。 「オレ様がお前たちに食べ物の取り方を教えてやる、知識をやる。生きるのに必要な全てをやる。」 「だからオレ様に従え」 「食い物くれんならいいよ」 「肉いっぱいな!」 少年は決意した。 ___オレ様は、妖全華を捨てる。 「名前を聞いておこう。」 「オレは弦狼」 「オイラ三日狼!」 「アンタは?」 「オレ様は...」 ___酒薔、と言おうとして辞める。 いや、国を捨てるならその名前も捨てよう。 オレ様は今死んだ。絶滅して生きているもの、そうだオレ様は狼男になろう。 「オレ様のことは望狼(のおう)と呼べ。」 「おう!大兄貴!」 「大兄貴?」 「弦狼が兄貴だから、アンタは大兄貴だ!」 「いや、だから望狼...」 「じゃそれで、よろしく大兄貴。」 兄と呼ばれると、二人のことを思い出す。 「酒薔☆」 「酒薔兄様♡」 もう捨てると決めた兄や妹のこと、そしてまだ産まれてもいない自分の居場所を奪う弟のこと。兄と呼ばれる方が、未練など捨てられるだろうか。 「わかった、大兄貴で良い」 呪いの森で、少年の復讐がはじまった。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 望狼は一度だけ、新しく生まれた弟を遠目に見に薔薇宮殿を覗きに帰ったことがあった。 中庭にいた薔鬼と名付けられた四本角の王は、齢五つにして大人に囲まれ政務に近いものをこなしていた。 あまりにも違う己との差。 子ども同士の追いかけっこ如きで誇っていた自分は所詮、普通の枠の中の優れた子どもだったのだ。 本当に世を変える王とは、あのような形をしているのだろう。 薔薇宮殿から帰った後、望狼は己の三本の角を折り、顔に傷をつけた。 もう二度と酒薔には戻れなくするために。 ___あの国には、もうオレ様の居場所は無い。 ▼▽▼▽▼▽▼▽ 次回!頭の角はち●この本数! 王の王が光り輝く! ▼▽▼▽▼▽▼▽ 以下本編がシリアスで辛すぎるので小ネタ。 小ネタ 【クリエイター望狼】 「大兄貴、背伸びて服小さくなった」 「わかった、作っておく」 「大兄貴ぃー!魚食いてえ!」 「わかった、釣竿を作ろう」 望狼はどんどん作るもの規模が大きくなっていった! 「畑を作る」 「こんな小せえもの埋めてどうすんだ?」 「まあ見てろ、数ヶ月経てば野菜が育つ」 数ヶ月後。 「ほらな」 「すげえな」 「宮殿の厨房が使えたから肉野菜炒めを作った、食え」 「大兄貴スゲぇーーー!!!」 小ネタ 【スパルタティーチャー望狼】 「国を作るとなったらお前らには戦闘面ではなく頭脳面でも働いてもらう必要がある」 「ウゲッ!何かめんどそう!オイラパス!」 望狼は、逃げようとする三日狼を捕まえた。 「逃がさん!成人する頃には国の軍略兵、警護兵、治癒兵、宮仕兵どこでも即使えるようみっちり叩き込んでやる。」 「オレら字も読めないぞ」 「安心しろ。オレ様は扱いが面倒臭くてやる気のない頭も悪い奴に教えてることには慣れている、アレより出来の悪い奴などいない」 ※薇酒くんは大層出来が悪かったので弟の酒薔くんに面倒を見てもらっていたのだ! 「ヤダヤダー!」 「課題をクリアしたら好きな飯を作ってやる」 「マジ?!やるやるー!」 「単純な奴だな」 小ネタ 【狼男になろう】 (酒呑童子であることを隠すにはまず仮面だな) 木を切って、仮面を作った。 (狼男になるなら耳と尻尾がいるな。本物が居るし、本物の毛を使おう。) 「弦狼、髪を切ってやる。来い。」 「丁度邪魔だった、助かる。」 チョキチョキ (頭の毛と耳の毛で微妙に毛質が違うのか、両方取っておこう) 「三日狼、尻尾の毛繕いをしてやる。来い。」 「ヤッター大兄貴のあれ気持ちいいんだよなー!」 モフッモフッ (刈っても刈ってもボリュームが減らない!もう毛玉がこんなにデカいのに!どういう毛質なんだ!) 弟たちの毛を刈ること数回___やっと望狼の耳と尻尾が完成した! 「会心の出来だ」 「スゲぇーーー!!!」 「大兄貴は何でも作れるんだな」 「まあ何か作るのが好きだったからな」

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