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07 後輩がモテすぎて困る
正直に言うなら披露宴が始まる前に帰りたいところだったが、すでに名札つきの席も用意されているというから仕方なく席につくと、同じテーブルを案内されたのは、幸か不幸か、見知った顔ばかりであった。
披露宴の会場内にはいくつかの円形のテーブルが用意され、新郎新婦それぞれの親戚、小中高、大学時代の友人、会社の同僚などの区分で分けられているみたいだった。
本日の新郎、新村の大学時代の友人として出席しているのは十名ほどだった。その中には、雪希の友人もいればそうでない者もいる。
「星宮くん、久しぶり」
「あ、はい……」
嫌な予感がしていたら、隣の席の女の子が話しかけてきた。
確か新村のゼミ仲間で、話したことはあるが、さほど仲がよかったわけではない。
自然と、雪希の表情は緊張でこわばる。
当たり障りのない雑談を少々繰り広げたあと、彼女はこんなことを言い出した。
「そういえば、秋吉くんとはまだ連絡取り合ってたりする?」
秋吉くんとはつまり秋吉楓。
昨日も顔を合わせていた後輩だ。
「……まぁ」
話の展開が読めたぞ。彼女は雪希と話したかったのではなく、楓の話を聞きたかったのだ。
「秋吉くん、大学時代にバイトしてた本屋でそのまま社員になったんだね。こないだ久しぶりに寄ったらレジに秋吉くんがいたから、びっくりしちゃった」
「……楓くんは本が好きだから」
「もう結婚したりしてるのかな?」
「……結婚はしてないけど」
「彼女はいる?」
(大変だなぁ、楓くん。大学の先輩にたまたま再会しただけでロックオンされちゃうなんて)
羨ましさよりもむしろ同情の気持ちが浮かんだ。
顔と人当たりがいいというだけでいろんな人に言い寄られるとか、自分が同じ立場だったとしたら拷問も同然だ。僕は顔も愛想も悪くてよかった、と心から思う。
こういうことを前に綾瀬ユキ名義のSNSで言ったら『モテない女の僻み乙』と叩かれたので、もう言わないようにしてるけど。
「いるよ。とびっきり可愛い、年下の彼女」
実際のところ、大学時代もそれ以降も、楓に彼女がいるという話は一度も聞いたことがない。
だけど、雪希を上手いこと利用して楓に近づこうとする女の子に事実を告げれば面倒なことに巻き込まれることほぼ確実なので、雪希はいつも適当に嘘をつくことにしていた。
「えーっ? 秋吉くんって、年上が好きなんじゃなかったっけ?」
ちなみに、大学時代は年上のキャリアウーマンの彼女がいる設定だった。
楓本人に話したら、笑ってたっけ。
「楓くんの好みはよくわからないな」
これは本当だ。
好きな漫画やアニメのキャラの話でも、楓が好きだと口にするキャラは、いつも系統がバラバラだ。
「写真とか持ってないの?」
「僕が楓くんの彼女の写真持ってたらおかしいでしょ」
雪希が苦笑すると、彼女は「確かに」と呟いた。
「でも、いつも一緒にいたから、星宮くんならもしかして、と思って」
言い訳じみた言葉を残して、彼女は反対側の席に座る女の子の方を向いてしまった。
披露宴の二次会に参加するつもりはなかった。本当になかった。
だが、雪希が新村に依頼されて描いた結婚式をウェルカムボードの絵を新婦がいたく気に入ったらしく、どうしてもと誘われて、断りきれなかった。
勧められるままにカクテルを飲んで、何杯目かでそれがいつの間にかスパークリングワインに変わっていて、ふわふわとした気分でいつの間にか新婦相手に今期の注目アニメについて語っていて、二次会が終わる頃にはいろんな意味でひどい吐き気に襲われていた。
そして二次会の終わり頃のこと。
「あのウェルカムボードの絵を見てもしかして……と思ってたんですが、綾瀬ユキ先生ですよね?」
新婦から小声で耳打ちされた雪希は、悲鳴を上げながら外に飛び出したい気分になった。
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