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26 きみがいてくれてよかった

 可愛くてかっこいい後輩が自分の下半身を少しずつ作り変えていくのを、二十六歳漫画家はぼんやりと、ベッドの上でただ脚を開いて眺めていた。  本来なら誰にも触れられるべきではないところを指でいじられていることは理解している。  恥ずかしいとか、やめてほしいとかいう気持ちもある。  しかし、さっきからずっと頭の中が霞みがかっていて、どこか他人事のように思えていた。 「せんぱい、先輩……雪希さん? ……寝てますか?」  声をかけられて、ハッとする。  どれくらいかはわからないが、意識が飛んでいた。  多分、寝ていたのだと思う。 「ごめん……」 「……大丈夫ですか? 男にお尻いじられながら寝ちゃうって……ほんとに危機感が足りなさすぎて心配になります。オレの良心がもう少しでも欠如していれば、寝ている先輩に、もっと好き勝手していたところです」 「睡姦はいいよね……夢がある……」  楓が本気で心配してくれているのは伝わってきたが、酔いと睡魔のせいで頭が回らない雪希の思考は、だいぶゆるくなっている。 「……えろ漫画の話してます?」 「まあそうだけど……。つい眠っちゃうぐらい、楓くんの指が気持ちよかったから、別になにしてもかまわなかったよ……」  声はいまだ夢心地のままで、最後にはあくびがまじる。 「…………」  楓はなにか言いたげにじっと雪希を見つめてきたあと、ためらいがちになにかを持ち上げた。 「これ、使いますね」  コンドームの袋だ。童貞の雪希にも、それぐらいの知識はある。 「そんなもの、持ってたの……?」 「先輩に以前、もらったものです」 「……?」 「ほら、二年くらい前? 男女モノのアダルト漫画を描いてみませんか? って仕事の依頼がきたことがあったじゃないですか。その時に資料として先輩が買って……最終的に『僕は使う予定がないから、楓くんが使いなよ』って押しつけられたやつです」 「あー……」  そういえばそんなことがあった。  エロ漫画は今までまったく描いたことがなかったけど、エロ漫画を描いた方が稼げるかもしれない、という下心から、なんとなく勢いで仕事を引き受けてしまったのだ。  しかし、ネームになかなかOKをもらえず、苦労しながら何度か描き直しているうちにその出版社が倒産して結局お蔵入りになった、という、今となっては忌まわしき案件である。 「もしかして、そのローションも?」  ベッドの端には、ローションのボトルも転がっている。さっき、雪希のうしろを慣らす時に使っていたやつだ。 「そうです」  楓くんはいつも用意がいいなぁ、とぼんやり思っていたが、まさか、出所が自分だったとは。  そうだ確か、ローションとコンドームとバイブをネットで買って、資料としてひととおり写真を撮ってみたり、ローションの感触を確かめてみたりしたものの、それ以外で特に使う予定がなかったので、まとめて楓に押しつけたのだった。 「……楓くんが使いなよ、とは言ったけど、まさか、僕自身に使われることになるとはね……」  どんな数奇な巡り合わせだ。 「先輩、ありがとうございます。助かりました。さっきの風呂のあとにコンビニに駆け込んでたら、先輩、絶対に寝ちゃってたと思うので」 「あの……さ、まさかとは思うけど、バイブは使うつもり、ない、よね……?」  急に不安になってきておそるおそる問いかけた雪希に、楓はきょとんとしたあと、にこりと美しく笑った。 「使ってほしいんですか?」 「ごめんなさい。やめてください。お願いします」 「よかった。別に使ってもいいよ、って言われたらどうしようかと」  言いながら、楓はゴムの袋を破って、自身に装着している。 「……そろそろ限界なんで、いいですか?」  どうしよう。眠気がだんだん覚めてきて、緊張してきた。  心臓が、痛いくらいバクバクと脈打っている。 「え、と……? 優しくしないで、めちゃくちゃにして、だっけ……?」 「それ、ボツになった先輩の漫画の台詞ですよね?」  緊張をごまかすために雪希が言った言葉に楓はくすくす笑いながら、のしかかってきた。  本来なら雄を受け入れるような場所ではない秘孔は、完全に怒張しきった雄を押しつけられて、反射的に押し返そうときゅっと締まるが、たっぷりと時間をかけてほぐされていたため、侵入を拒むほどの力はなかった。 「あ、ぅ……」  はいってくる。太くて硬いモノが。  他人の肉体の一部が。自分の中に。 「雪希さん、そんなに締めつけないでください」  あやすようにゆっくりと腰を進めてくる楓が、色っぽく笑った。  欲望にまみれていても、その顔は綺麗だった。  こんなに綺麗なものに、自分は愛されているのだ。 「ん、ふ……ぁ、っ……ん……」 「痛いですか?」  気づいたらまた、泣いてしまっていた。 「ちが……。ぼく、ちゃんと、あいされてる、んだよね……?」 「愛してますよ。言葉が足りなかったのなら、もっと言いますね」 「そうじゃなくて……そんなふうに僕のことを思ってくれるひと、きっと一生現れないんだろうな、って思ってたから……しんじられなくて……」 「雪希さんのことを大好きな人は、フィクションの中じゃなくて、現実に……ここにいますよ。ちゃんと、受けとめてください」  シーツを掴んでいた手をすくいあげられて、楓の左胸に押しつけられる。  あたたかな心臓の鼓動が伝わってきた。 「……ぼく、一生ずっと一人じゃなかったんだね」 「誰にだって、愛される権利はありますよ」  でも、そんなことを言ってくれる人に恵まれる幸運は、誰にでも訪れるものではないんだろうな、と思ったから、ふへ、と力の抜けた笑いを雪希はこぼした。 「楓くんも、ずっとひとりのままじゃなくてよかった……」  繋がり合った部分から伝わってくる熱に、また、新たな涙が溢れてくる。 「……そんなに泣かないでください。オレまで泣きそうになるじゃないですか」  雪希の脚を抱え直しながらそう言った楓は笑っていたけど、ちょっとだけ泣きそうなその顔は、やっぱり綺麗だった。  ああ、描きたいなぁ、と腰を前後に揺すられながら思う。  やっぱり今度、天気がいい日にルーフバルコニーで油絵の具を広げてみようか。  いつも一人で、美術室で絵を描いていた。  キャンバスの中に描いたのは、想像だけで描いた架空の存在の絵ばかりだった。  目の前にモデルがいてくれたなら、もっと鮮やかな色を使えただろうか。 「くっ……ふぁぁ、う、ぁ……んっ! そこ……ぉ……!」 「ふ……ゆき、さ……んっ、ん……」  秘密基地みたいな屋根裏部屋に、甘ったるい嬌声と、熱っぽい吐息、それから、粘着質な水音が響いている。  テーブルの上には、飲みかけの酒と食べかけのおつまみが放置されたまま。  そんなことに気を向ける余裕もなく、けだものみたいに求め合った。  マグロでもいいかと事前に確認するほど体力に自信のなかった雪希も、気づけば自ら腰を振っていた。  途中で何度かイった気がするけど、あまりよく覚えてはいない。  そう時間がかからず楓が達したあと、無言で『いいですか?』と問われたので小さく頷いて二回目を許したのぐらいしか覚えていない。  とにかく気持ちよくて、それだけだった。

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