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《第2章》楓くんの自問自答 問1①
【Q1】帰宅したら、恋人がオレの部屋でオレの服を勝手に着ていて、照れくさそうな顔で、鏡に映る自分の姿を眺めていました。こんな時、どんな反応をするのが正解なのでしょうか?
【A】やはり抱くべきだと思います。
「……先輩?」
ドアの前でしばしフリーズしていた楓の存在に気づいた雪希が、ギクリと振り返る。
「楓くん!? 帰ってたんだ? おかえり! ごめん、気づかなくて……ていうか勝手に部屋に入って、勝手に服を借りたりしてごめん! えっとこれは……そ、その……楓くんに言われた通り、もっとオタクっぽくない服を買おうかなぁって思ってネットでいろいろ見てたんだけど、どれも、僕が着たらダサくなりそうで……楓くんの私服、いつもおしゃれだから、それならいけるかなぁって……試しに着てみようかと思い立ったんだけど……その……」
だらだらと言い訳を続ける雪希のシャツのボタンを、楓は無言で外し始める。
すると、ただでさえしどろもどろだった雪希が、よりいっそう焦り出した。
「ごめん! 僕が着ても似合わないよね!? ていうか、楓くんに了承をもらってから借りるのが普通だよね! 楓くんに相談すれば一緒にお店まで服を選びにいってもらえるとは思ってたんだけど、その……か、彼シャツ? みたいなのをこっそり経験できて一石二鳥かなって……出来心で……ほんとすいませんでした」
申し訳なさそうな顔が最後には落ち込んでどんよりしている頃には、シャツのボタンは外し終わっていた。
カジュアルな黒のボタンダウンシャツの下は素肌ではなく、Tシャツを着ていたが、それもまた、楓のものだった。
ジーンズまで勝手に拝借したものであることに気づいて、楓はくすりと笑った。
「腰、ゆるゆるですね」
ぴっちりした細身のジーンズだが、雪希が着ると、ウエストの部分があまって隙間ができている。
「ついでに裾も……僕には合わなかったみたい」
はは、と情けなさそうに雪希は力なく笑った。
だぼついたサイズ感は、おしゃれというよりもだらしない印象で、それでいて妙に色っぽく見えた。
「先輩、腰、細いですよね」
「貧弱なだけだよ。楓くんはこう……見かけによらず筋肉ついてて、脚も長いし、カッコいいよね」
「先輩は運動不足で甘い物も好きなわりにまったく太らないあたり、素敵な体質だと思いますよ。多分、世の女性たちが聞けば羨ましがるかと」
本当は、女の話などどうでもいい。
ゆるいウエストから覗く下着にそそられて、楓は無遠慮に、ウエスト部分に指先をひっかけて、その隙間を覗き込んでいた。
「なんですかこれ。赤?」
「あ……ネットで下着の福袋の安いやつが売ってて、これでじゅうぶんかな、と思って買ってみたら、派手な柄のばっかりで……」
「へぇ……参考までに、見せてもらってもいいですか?」
雪希の了承をもらう前に、ジーンズのボタンに手をかける。
ジッパーを下ろしてみると、予想以上に派手な下着が現れた。
大量の赤とピンクのハートが全体にちりばめられたデザインの、ボクサーパンツだったのである。
「ずいぶん可愛らしいですね」
下着が、というよりも、下着を見られて恥ずかしそうにしている雪希に向けて楓はそう言った。
腹の底で疼く劣情とは裏腹に、楓は淡々とした口調であったため、雪希はいたたまれない、とばかりに視線をそらしている。
「履き心地はいいんだよ、すごく」
「ああ、ほんとだ。肌触りとフィット感がよさそうですね」
下着越しに、前を撫でてみる。
安いというわりに生地は柔らかく、伸縮性がありそうで、履き心地がよさそうなのは察することができた。
ようは、質はいいけど柄が派手すぎて売れ残ったものを福袋に詰め込んだ感じだろう。
「か、楓、くん……!」
「なんですか?」
上擦った声を出す雪希に、楓は冷静に返した。
わざとではない。どうしても、心を落ち着かせようとすると淡々とした態度になり、結果的にいじめているような感じになってしまっているだけだ。
「……さ、さわられると、たっちゃうから、その、やめて……」
おずおずと懇願してくるさまは純真でいたいけそのものだが、言っている内容はだいぶえっちだ。そのギャップに、頭がくらりとくる。
「下着の履き心地を確認しただけですよ」
「そ、そうだよね……ごめん」
勝手に興奮しそうになっている自分を恥じて、雪希は目を伏せている。
この人は、なにかあるたびにすぐに謝る。自分が悪い、と思い込んで、他人を責めたりはしない。
それにつけ込んでいるようで申し訳ないけど、可愛いなぁ、と思ってしまう。
抱きしめて唇を合わせたら、雪希は腕の中でびっくりしていた。
「な、なに……!?」
付き合い始めてから一ヶ月。
毎日キスはしているし、体を重ねた回数も両手の指の数では足りないくらいなのに、この人はキスをするたび、はじめてキスを受けたような反応をする。
「すみません。先輩に誘ってるつもりがないことはわかってるんですが、オレが勝手にムラムラしちゃいました。このまま抱いてもいいですか?」
「は……え……? このまま……?」
「そうです。オレの服を着たまま」
困惑気味だった雪希の顔が、羞恥に染まる。
「ま、まって。楓くん、帰ってきたばっかりじゃん。ごはんとか……」
「ごはん食べてる間に、先輩は絶対、着替えちゃうじゃないですか」
「そ、そりゃあそうだけど……」
逃げ腰の雪希が逃げられないように抱え上げて、隣のホームシアター用の部屋に連れて行く。
ベッドがあるのは上の階で、そこまで行く手間をかけずとも、楓の趣味部屋でもあるホームシアター用の部屋には、そこそこいいソファが設置してある。
それと、その部屋は、前の家主が住んでいた時はピアノが置かれていた部屋で、防音室でありながら、音がよく響くようにできているのだ。
つまり、えっちなことをする環境としても快適であることは、今のところ内緒である。
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