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《第2章》楓くんの自問自答 問2①
【Q2】たまには外で待ち合わせしてデートしようよ、と同棲中の恋人が言うので海の近くにある人気のデートスポットで待ち合わせの約束をしたところ、約束の時間よりも三十分遅れてやってきた恋人が、女の子の格好をしていました。どうするべきでしょうか?
【A】抱くしかないと思います。
「…………お、おまたせ……。ごめん、遅れちゃって……」
そう声をかけてきた女に、楓は怪訝な眼差しを向けた。
『問題が発生したから遅れるね。必ず行くから待ってて。本当にごめん』
三十分前、そう連絡をよこしてきた恋人から今から五分前に『もうすぐ着く』というメッセージがあったのは頭に入っていたが、まさか、近づいてきたフリフリスカートの女の正体が恋人だとは、最初は夢にも思わなかったのである。
「……先輩?」
半信半疑のまま声をかけると、俯くようにして、三つ編みのツインテールをした女が小さく頷く。
「……出かけようとしたらウィッグがずれちゃって……直してたら時間がかかって、遅れちゃった。本当にごめん」
ぼそぼそと小声で囁くような声だったのでだいぶ聞き取りづらいが、確かに雪希の声だった。
昨日、楓は実家に泊まっていて、今日は実家から直接ここにきた。
母が『たまには帰ってきなさい』とうるさいのでこの日は実家に泊まる、と雪希に告げた時、本当に泊まるのかと何度も確認されたのが妙に引っかかっていたのだが、まさか、女装デートの準備をするために、当日まで確実にバレない日を選んだということだろうか。
「……これなら外で楓くんと手を繋いで歩いても、変じゃないかな?」
いったいなにがどうしてそうなったのか理解できずに呆然と立ち尽くしていた楓だが、その言葉にハッとさせられる。
「もしかして、オレとちゃんとデートらしいデートをするためにわざわざ女の子の格好をしてきたってことですか?」
思わず直球で聞いてしまうと、またしても俯いた雪希は、「ん」と小さく頷く。
「……コ、コスプレやってるネットの友達に、服選びのアドバイスをもらって、メイクの仕方も教えてもらって……なんとかそれっぽくしてみたつもりなんだけど……ちゃんと女の子に見える?」
「見えます。声をかけられるまで、知らない女の子にしか見えませんでした」
キッパリと楓は言い切った。
なんかアニメに出てくる女の子っぽい雰囲気だけど、とは思ったものの、それは口にしない。
雪希はほっと息を吐いて、ようやく、わずかながらも笑顔を見せた。
「今日は楓くんの『彼女』にしてくれる?」
可愛い笑顔だった。
楓はドキリとして、反応が遅れる。
「それじゃあ今日は『雪希ちゃん』って呼びますね」
照れくさくなって、つい、自分でも無意識に妙なことを口走っていた。
「雪希ちゃん?」
「嫌ですか?」
「う、ううん……あの、どうでもいい話なんだけど、幼稚園の時、さ……お母さんが僕の髪を切るのをめんどくさがって髪がちょっと長かった時期があって……その時に同じクラスの男子に『ユキちゃん』って呼ばれてからかわれて、すごく嫌だったことがあるんだけど、楓くんに呼ばれると……なんか、ドキドキするね」
緊張を示すように、雪希は早口気味に喋る。
言わなくていいことをついつい口に出してしまっているのも、緊張している証拠だろう。
「へぇ……その時の写真、見たかったですね」
「実家に帰ればあると思うけど……そんなに可愛くなかったから、見なくてもいいよ」
「可愛いかどうかを決めるのはオレですよ」
「今は……? 可愛い? それとも不細工?」
俯きながら、雪希は不安そうに問いかけてくる。
いつもよりも睫毛が長く見えた。おそらく、つけ睫毛でもしているのだろう。唇も鮮やかなピンク色で、艶々だ。頬も、淡く色づいている。
楓は、化粧をバッチリしているタイプの女はわりと苦手だ。
しかし、男で、女装趣味があるわけでもないのに、楓のために慣れない化粧をわざわざしてくるこの人は可愛いな、と心から思う。
「可愛いですよ。結婚してもらいたいぐらいですね」
「けっ……!?」
冗談まじりの言葉であることは雪希にも伝わっただろうが、チークに負けないぐらい、頬が鮮やかに色づくのは一瞬だった。
かわいい。
いますぐキスをしてやりたくなったが、せっかく一生懸命施したはずの化粧が崩れては可哀想なので我慢する。
「さぁ行きましょうか? 今日は、堂々と恋人らしいデートしてもいいってことですよね?」
手を掴んで歩き出す。
「今日の先輩は『雪希ちゃん』なので、思いっきりかわいこぶったらいいですよ」
本当は、いつもの雪希の姿でも手を繋いで外でいちゃいちゃしたっていいし、おどおどせずにもっと自信を持って振る舞ったらいいと思うけど、この人にはこういう仮面も必要なのだろう。
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