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《第2章》楓くんの自問自答 問2④
「先輩、すごいですよこれ。幽霊との記念写真がもらえるみたいですよ」
「いらない! 絶対いらないよ! なんでそんな嬉しそうなの!?」
「記念になりそうじゃないですか」
「そんな記念いらないよ! 持ってたら呪われそうじゃない!?」
「逆に魔除けになるかもしれませんよ」
「写真撮りたいならプリクラにしようよ! さっき見かけたよね!?」
ずいぶんと必死な雪希に、楓はくすくす笑う。
もちろん冗談半分で、無理やりお化け屋敷に連れ込むつもりはなかったので、あっさりと方向転換して、さっき見かけたゲーセンの方に向かった。
「雪希ちゃん、プリクラ撮るのももしかして初めてですか?」
「……なんでわかるの?」
「なんとなく」
「楓くんは、高校生ぐらいの時に、女子に誘われて、彼女以外の子とも何度かプリクラ撮ったことありそうだよね」
「なんでわかるんですか?」
「わかるよ! モテ男ってそういうもんでしょ?」
モテ男に対する偏見がだいぶありそうな口ぶりだが、妬まれているふうでもないので黙っておく。
「知ってる? 中高生のアンケートの『はじめてのキスの場所は?』って質問で、『プリクラ機の中』って答えた子、けっこういるらしいよ」
「何年前の雑誌ですかそれ」
「楓くんも、き、キスプリとか、撮ったことあるの?」
嫉妬心というよりも好奇心で聞いてきていることがなんとなく察せられた。
この人は二十六歳になっても、たまに中高生みたいなノリの時がある。
「……一度もありませんけど、それは、キスプリを撮ってほしいというお誘いですか?」
「そ、そそそういうんじゃなくて!」
本気でそこまでは考えていなかったらしい雪希は、楓の言葉に動揺している。
「まぁ、キスしてる写真なら、さっき撮りましたしね。オレはどちらかというと、普通に仲良くツーショットで撮ったやつに落書き機能で、綾瀬ユキ先生のサインを書き込んでもらえる方がテンションあがります」
すると今度は、残念なものを見るような目で雪希はこちらを見てきた。
「サインなんて、新刊出すたびに書いてるじゃん。あっ、女の子に擬態化した綾瀬ユキのファン感謝イベントに参加したって設定?」
さすがオタクの先輩だ。謎に理解が早い。
「まぁ、そんなようなイメージです」
「あっ、よく考えたら僕、女装姿だったらもしかして、サイン会できるかも!?」
百合漫画家、綾瀬ユキは表向きには女ということになっていて、正体が男であることを隠すために、今までサイン会はすべて断ってきている。
「先輩の女装の完成度はなかなかですが、やめといた方がいいですよ」
ついうっかり、が多い雪希のことだ。どこでなにをやらかすか、楓ですら想像に限界がある。
「やっぱり、声は変えられないから無理かな?」
雪希の声はもともと、男にしては高めな方だ。
自信なさげにぼそぼそ喋っている時は声が低く、男の声にしか聞こえないが、テンションが高い時の声だと『ハスキー気味な女の子の声』に聞こえなくもない。
「どんなに女装が上手くても骨格までは変えられませんし、見る人が見ればバレるかと。とりあえず、炎上の原因になりそうなことは控えた方がいいと思いますよ」
炎上して、一番落ち込むのはこの人なのである。それをいつも慰めたり後始末をしたりしている楓としては、自衛を促した方がいいという考えになる。
「そうだよね……じゃあ女装は、楓くんとのデートの時だけにする……。ほんとはちょっと、コスプレイベントとか出てみたかったけど」
それは初耳だ。
「アニメのコスプレですか?」
「うん……女装レイヤーやってる男って、珍しくないみたいだし……今日、女装姿で歩いてたら思いのほか楽しかったから、僕でもできるかなって……」
『女の子』という仮面を被っていることで、気が楽になるのだろう。素顔を人に見られるのが嫌いな雪希のことだから。
「……綾瀬ユキという名前を名乗らなければ、問題ないんじゃないですか? オレをカメラマンとして必ず同行させてくれるなら、好きにしたらいいですよ」
中身が男だとバレてもセクハラしてくる男がいるかもしれない。
今日の雪希の無防備さを見て不安になった楓は、セコムになる覚悟を決めて告げた。
「え? あはは。楓くんがカメラマンとなると、被写体よりもカメラマンの方がカメラ映えしそうで、別の撮影会になっちゃうよ」
「コスプレ会場でそれはないと思いますが……じゃあカメラは持っていかないので、雪希さんの付き人ということで」
「付き人って……芸能人じゃないんだから」
「だったら、ただの彼氏としてついていきます」
他愛ない話をしながら、懐かしい感じのする古めかしいゲームセンターをブラブラしてから、プリクラ機に入る。
二人で同じポーズを決めたり、二人で一つのハートマークを作ったりする写真を撮った。
思いのほか、楓もはしゃいでしまった。
そのうちの一種類には、ちゃんと綾瀬ユキの名前でサインを書き込んでもらった。
プリクラ機から出てきたシール紙を見て、雪希はご満悦顔だ。
「楓くん、なんか可愛いね」
柄にもなくはしゃいでいるのが雪希にもバレてしまって、なにやら恥ずかしい。
「先輩も可愛いですよ」
ゲーセンに来たついでにクレーンゲームを少しやって、結局なにも取れないまま次にようやくダイビングコースターに行って、気が向くままふらふらと他のアトラクションを回っていたら、あっという間に夕方になってしまった。
「そこらへんで夕飯食べて、最後にもう一回、観覧車に乗って帰りますか? 今度はちゃんと外の景色をゆっくり見せて差し上げますので」
「あー……うん、そうだねぇ」
頷きながらも雪希の反応が鈍いことに、楓は気づいた。
「先輩? 疲れちゃいました?」
「……疲れたのもあるんだけど、足がその……痛くて……」
今日の雪希は、ゴスロリ風味の、ストラップのついた黒い厚底の靴を履いている。
「靴擦れですか?」
ひとまずベンチに座らせて、靴を脱がせてみる。
「あー……踵とサイドのとこ、赤くなっちゃってますね」
「やっぱり?」
「途中でタイツ脱いだのもよくなかったのかもしれませんね。すみません、気づかなくて」
「いいよ。楓くんのせいじゃないし。実はさ、駅前のロッカーに、着替え一式と替えのスニーカーを入れてあるから、夕飯前に着替えちゃってもいいかな?」
「準備がいいですね、先輩」
「はは……僕の女装姿に楓くんがドン引きしちゃったら、着替えてから帰ろうと思ってたからさ……」
マイナス思考が功を奏したということだろうか。さすが雪希だ。
「オレはこれでもけっこう、先輩の醜態と奇行はいろいろ見てきたつもりですよ。女装程度でドン引きするかもしれないと思われるとか、見くびられたものですね」
「えー……それ、ときめいていいやつ? 笑った方がいいやつ? それとも落ち込んだ方がいいやつ?」
「お好きにどうぞ」
念のため持ってきていた絆創膏を雪希の足に貼ってから靴を再び履かせる。
立ち上がった楓は、雪希に手を差し出した。
「駅まで歩けますか? それともおんぶしていった方がいいですか?」
「お、おんぶはさすがに恥ずかしいかな!?」
「なら、ゆっくり歩きましょう」
駅までは歩いて五分もかからない。
雪希の様子を見ながらゆっくり歩いていると、控えめに、体重を預けてくる気配があった。
腕を絡めてぎゅっとしがみつかれる。
いつもとは別人のような格好をしている雪希だが、ふわりと漂ってきた匂いは、いつもの雪希と変わらない香りだった。
あたたかなもので胸が満たされていく気がする。
楓は、よりいっそう、歩調をゆるめた。
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