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《第4章》オタクはそれを沼と呼ぶ①
そのウサギの瞳の中には、宇宙があった。
県内の高校生の美術作品が集められた展示会場で、F100号キャンバスに描かれた一匹の巨大なウサギは、異様な存在感を放っていた。
ただ精密で上手いというのとは違う。
違和感の正体を確かめるために近づいた人々は、ウサギの目がなぜ赤ではなく青で描かれているのか知ることになる。
青白く輝く星が、その瞳の中に無数に散らばっているのだ。
そして、毛の質感も、通常の絵とは違うことに気づかされる。
盛り上げられた下地材で毛の一本一本の凹凸を表現されたウサギは、まるで立体作品のような生々しさを持ってそこに存在していた。
荒削りな部分も見受けられるが、瑞々しい存在感に満ちあふれていた。
絵というのは、こんなにも自由なんだ。
油彩特有の技法だとはわかったが、その表現方法の自由さに、カルチャーショックを受けた。
今まで自分が『絵』だと思って描いてきたものと、全然違う。
縦162cm、横130cm。
絵としては大きな方だが、世界という尺度の中ではあまりにも小さい、わずか2m四方にも満たないキャンバスの中で、現実には存在しないはずの世界が確かに息づいているようだった。
これが、『創造』。
なぜ、自分の絵は『上手いけどつまらない。なにも伝わってこない』と言われてきたのか、ようやく思い知った。
キャンバスの下に飾られた名前を見て、目を瞬かせた。
――誠東高校 3年 星宮雪希
作者の名前にも星が入ってるんだ、と思って、不思議な気分になった。
オレは、その次の日、美術部に退部届を提出した。
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