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第2話 この場所の事情
アゼリアは、男の人が好きな男の人向けのバーだった。
従業員は4人。オーナーの甥っ子のノブちゃん。若く見えるけど実はオーナーより年上のマサ君。それから、見た目にはわからないけどハーフでスラっと背が高くてモデルみたいなレイ君。そして俺。
俺とノブちゃん以外はオーナーも含めてゲイだ。お店に来る人もほとんどが相手を探しに来ているゲイだった。
一般的なバーが立ち並ぶ通りの端っこにあるからか、たまに間違えて普通の男の人が入ってくることもあったけど、たいていの場合、中を見て出て行ってしまう。
俺の仕事はカウンターの中での簡単な調理とドリンクを作ること。それから開店の準備、閉店後の後始末。買出し。
「由羅が来てくれてよかったよ。でないと俺が忙しい時、ちゃんと料理できるやつがいないんだ。これなら、まともなメニューも出せそう」
俺の料理を食べたノブちゃんが目を輝かせながら、そう言ってくれた。
「公演が近くなると忙しいからさ。これから頼んだぞ」
こんなに歓迎してもらえるとは思っていなかった。
「おまえ、家事とか上手いだろ?掃除もきちんとしてるし…俺、もっと舞台増やせそうだな」
ノブちゃんは役者を目指している。そして店では俺と同じ仕事をしている先輩で、下ごしらえをしながら色々と仕事のコツを教えてくれた。
“男に興味ねえって言ってんのに、しつこく誘われることもあるからさ、そういう時は俺かマスターを呼べよ。客だからって仕方なく好き放題させちゃダメだ”
“フロアには出ないでカウンターで渡せばいい。あんま下品な客は来ないけど、たまにケツ触られたりするから”
“歳を聞かれたら、21って言えよ。でもって、ミュージシャン目指してバイト中ですって言っときゃいいんだ”
俺のギターを見たノブちゃんは、俺の夢がミュージシャンだと思ったらしい。確かに…唯一俺が見た夢はミュージシャンだった。兄さんがギターを残してくれたから…唯一奪われなかったギターがお守り代わりだったから…ただ、そう思っただけだけど。
「どういう事情で親が亡くなったのか知らないけどさ、俺もおまえと同じ境遇だから。何か全部どうでもいいって思う時もあるけど…生き残った俺たちは天命が尽きるまで、先に逝った人の分まで走らなくちゃなんだよな…」
ノブちゃんも両親とお姉さんを亡くしていた。だから唯一の身寄りであるマスターに引き取られたらしい。
兄弟のように接してくれるマスターとスタッフたち。そして誰にも責められることのない安心できる部屋で、俺は居場所を得た気がしていた。
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