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第7話 変化の始まり
次の日、俺たちは日用品を買いに出かけた。
「俺、山崎さんの気持ちが分かったんで、まずは学校とバイトを探して、それから家事もします」
山崎さんは3食コンビ二弁当だった。冷蔵庫には日本酒とビールしか入っていない。こんな生活じゃ全てがどうでもよくなるはず。それにいくら代理満足だからと言われても、無償で援助を受けるのは気が引けるから、せめて家事を担当しようと決めた。
「何が必要なんか分からへんから、適当に買って」
ホームセンターに入ると山崎さんはカートを押し、俺は調理に必要な道具や日用品を中に入れる。
「山崎さんは、好き嫌いないんですか?」
俺はさっそく夕食を作ってみることにした。
「何でも食える」
「夕食、何がいいですか?」
「おかゆと煮物、旨かったな…チャーハンも旨かった」
「じゃあ、今日は中華にしますね」
ひと通り材料を買って、俺たちは家に戻った。
***
俺たちは餃子とチャーハン、中華スープを作ろうとしていた。
「山崎さん…何ですか、それ?」
「…くっつかへんねんけど…」
山崎さんの手には、ボロボロの餃子の皮にかろうじて包まれたぐちゃぐちゃの餃子の餡。
「中身が全部出てますよ」
「あかん…冷凍買って来よ」
「俺がやりますから、山崎さんはタマネギ切って下さい」
「何やってんですか!?」
山崎さんは…タマネギの皮をむくということを知らなかった…
***
「めっちゃ美味い!!」
結局、山崎さんは料理する俺の横に突っ立っているだけで何もしなかった。それどころか“コンビ二で買って来よか?”を繰り返していた。
「コンビ二より美味しいでしょう?」
「1000倍美味い!由羅、あんた天才や!」
冷凍しておこうと多めに作った餃子まで全て平らげた山崎さんは、満足そうにお腹をなでた。
「こんな美味い飯食うたん、何年ぶりやろ」
「喜んでもらえて嬉しいです」
「あんた、ミュージシャンよりコックになった方がええんちゃう?」
「俺…ずっと家事をやってたんで…このくらい普通です」
「そうなんか…」
俺の家庭事情を何となく分かっている山崎さんは気まずそうにうつむいた。
「おかげでアゼリアでも歓迎してもらえたし、山崎さんにも喜んでもらえたから、何でもやっておいて損はないってことですね」
俺は雰囲気が和むよう微笑んで見せた。
「そういえば…玄太 って呼んでくれる?」
「え?」
「山崎さんて呼ぶ人おらへん。みんな玄太って呼んでる」
「でも…呼び捨ては…」
俺より相当年上であろう山崎さんの名前を呼び捨てって、どうなんだろう。
「ほんなら、玄さんでええやん。年下の子は玄さんて呼ぶから」
「玄さん…ですか…」
「それから、タメ口でええで」
「でも…そんな年上の人に…」
「由羅は18って聞いたけど?」
「はい」
「3つしか違わんやん」
え…3つって…3歳?じゃあ…21?まさか…どう見ても30は過ぎてるような…
「あの…山…玄さんて21歳ですか?」
「おお」
ここで嘘をつく必要はないから…本当に21歳なんだろうけど…
「もっと歳いってる思ったやろ」
「はい…」
「いくつに見えた?」
「30」
「…それはあんまりや…」
山崎…玄さんは片手で顔を覆った。
その夜、板の間に布団を敷く玄さんに声をかけた。
「山…玄さん、一緒に寝ませんか?」
「…だから、そういう趣味ないって」
「そうじゃなくて、こっちの部屋で寝ませんかってこと」
夜になると冷える季節になったので、隙間風の入る板張りの床に布団を敷いて眠るより、畳の方が暖かい。
「玄さんにそういう趣味がないなら、俺も安心して眠れるし」
「朝、起こしてしまうやろ?」
「いえ、玄さんより早く起きてお弁当作りますから」
「いや、そこまでせんでも…」
「明日、7時ですよね?俺は6時に起きるんで、起こしちゃうかも知れないけど…」
「そこまでせんでも…」
「迷惑ですか?」
「いや、そっちが迷惑やろ?」
「これからまともな生活をすることにしたので、迷惑じゃなかったらやらせて下さい」
「そんなら…お願いします」
そして次の日から、俺のまともな生活が始まった。
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