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第9話 変化2

 玄太は休みの日、“由羅の行きたいところに行こう”と車で由羅を連れ出す。 「明日はどこ行きたい?」  土曜日の今日は買出しをして、ショッピングモールをブラブラした。 「あの…」  由羅にはずっと行きたい場所があった。  両親の墓参り。3年前、こっそりお参りに行ったのが伯母に見つかり、さんざん叩かれた上に1日食事をもらえなかった。だからそれ以来、怖くてお参りしていない。 「どこ行きたい?どこでも連れて行ったるで。海外とかは無理やけど」 「あ…俺…」  由羅は玄太に心を開こうとしてた。だけど、いやだからこそ、こんなことを言うと嫌がられるのではないか、怒られるのではないか心配で口に出せずにいた。 「行きたいとこがあるんやな」 「うん…」  ためらう由羅を微笑みながら見つめる玄太。そして辛抱強く由羅の言葉を待つ。 「親の…お墓に…行きたい…」  最後は消え入るようにボソッと言った。それでも玄太はうんうんとうなずいた。 「それは行かなあかん。俺も行かせて欲しい」  真剣な面持ちでそう言われ、ホッとした由羅の顔に笑みがこぼれた。 「そうと決まったら、早よ寝よ」  その夜、由羅は今までにないほど幸せな気持ちで眠りについた。  次の日、玄太はスーツに着替えていた。初めて見る玄太のスーツ姿は、ガッチリとした体系にピッタリ合っていて、その格好良さに由羅は思わず見入ってしまった。 「何?」 「いや…玄さん…俳優みたいだなと思って」 「ヤクザ映画のやろ。よう言われる」 ―ヤクザより、孤独な正義のヒーローみたい…と由羅は思った。 「格好いいよ。玄さん、スーツ着てればモテると思う。」 「なに着てても、モテるで。」  玄太がニヤっと笑った。  二人は家の近所で花束とお線香を買った。そして由羅の記憶にある霊園名を探して車を走らせる。  由羅は流れる景色を見ながら、両親を思った。自分が10歳の時に自ら死を選んだ父。その3年後、もともと精神疾患のあった母が2年ほど病院に入ったまま亡くなった。それでも由羅が思い出すのは、幸せだった家族団らんの風景。  運転しながら、玄太は時々由羅に目をやる。思い出に浸っているのか、悲しみに浸っているのか分からないけど、浸りたいだけ浸った方がいい。そう思った玄太は無言のまま運転を続けた。  郊外の霊園に着き、由羅の両親の墓を探す。 「…ここだ」  家族の反対を押し切って結婚した父は、母方のお墓に入っていた。母が亡くなった後、父の遺骨を取り出して自分たちの墓に入れようとする伯母と、母方の親戚が争ったことがある。結局、死者を悲しませるだけだと、遺骨は移されることはなかった。  由羅が墓に花を供え線香をあげてお参りした後、玄太も線香をあげて両手を合わせた。そして真剣な眼差しで墓を見つめ、深々と頭を下げた。  立ち上がった玄太に“ありがとう”とつぶやいた由羅は、それでも墓の前から離れられずにいた。玄太は急かすことなく優しく由羅の手を握って、じっと墓を見つめながら由羅の気持ちが落ち着くのを待った。  家に帰る時も由羅は無言だった。  ―俺が生まれなければ、父さんは死なずにすんだと伯母さんが言った。俺が生まれなければ、父さんは離婚して幸せになれたのにと伯父さんが言った。俺は…生まれてこなければよかったんだろうか…  ふと、墓の前で深く頭を下げた玄太の姿が目に浮かんだ。  ―俺は…生まれてきてよかったんだと思いたい。  突然、玄太が車を路肩に止めた。そして由羅をギュッと抱きしめる。 「由羅を産んでくれてありがとうございますって、お礼言うたんや。おかげで救われてますって。由羅のことは俺に任せて、安らかに眠ってください。もう心配いりませんよって」  玄太の言葉が由羅の胸に染みる。 「亡くなった人の分も、幸せになれよ。」  深い胸に抱きしめられ、詰まっていた何かが流れ出すようだった。由羅は、せめて今だけでも…と、その安堵感に浸った。  アゼリアで溶け始めた由羅の凍った心を、玄太はすっかり溶かそうとしていた。

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