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第12話 マイ救世主
クリスマスが近づき、由羅は臨時のアルバイトを始めた。土日は玄太と過ごしたかったけど、今月だけだからと日中ショッピングセンターのおもちゃ売り場で品出しなどをする。面接の時、できれば夜もと言われたけど“玄太と一緒に夕食をとる”。それだけは譲れなかった。
「今日は、ちょっと残業するかも」
クリスマスイブの朝、玄太に弁当を渡しながら由羅が言った。
「最終日やろ?帰れって言われるまで働いて来い。夕飯は俺が買って来る」
「せっかくのイブなのに…」
「俺にはマイ救世主がおるから、クリスマスはあんまり関係ないけどな」
「何それ」
プッと由羅が噴き出すと、玄太も笑い出した。
結局、由羅は閉店後の片づけを手伝い、お世話になった店長やバイト仲間にお礼を言って店を出た。
アパートに着くと、部屋には明かりがついていた。
「ただいま」
「おかえり」
「今日は挨拶が逆だね」
「たまにはええな」
「わぁ…すごい」
テーブルの上を見た由羅の目が輝いた。玄太はクリスマス用のチキンセットと、ケーキ、シャンパンを買って来ていた。
「メリークリスマス」
シャンパンで乾杯し、温めたチキンを嬉しそうに見つめる由羅。
「どうした?」
「昔、クリスマスに食べたなと思って」
幸せそうにチキンのパックを見つめる姿に、玄太はなぜか胸が痛んだ。
「来年も、再来年もこうて来るから、早く食おう」
「うん」
美味しそうにチキンを頬張る由羅を見ながら“もういらんて言うまで、毎年買って来たろ”と玄太は心に誓った。
「そんなに飲んで大丈夫か?」
2杯目のシャンパンを飲み終わった由羅に、心配そうに玄太が聞く。
「うん。俺、酒強いんだよ」
「未成年やろ」
「でもね、アゼリアでこっそり飲ませてもらった」
「あの店…摘発されるで」
「マスターに内緒でマサ君の部屋で飲んだんだけど…1本飲んでも平気だった」
「ビールをか?」
「日本酒をだよ」
もしかして一升瓶をか?と思ったが怖くて聞けなかった。
「体が熱くなるんだよね。でもそれだけだった」
「そうか…」
「結局、俺に飲ませたことがバレてマサ君が叱られたけど…一升瓶空けて酔わなかったって話したら、これからは年齢詐称してフロアで接客しなって笑われた」
一升瓶をか…子供のように無邪気に笑う由羅に、玄太は内心恐れを感じた。
食事が終わり、ケーキを切る玄太の手をワクワクしながら見つめる由羅。毎日イブならええのにな…と玄太は思う。由羅にはいつも笑っていて欲しかったから。
玄太は甘いものがあまり好きではなかった。だからスポンジの部分を少しだけ食べる。
「もう食べないの?俺が食べさせてあげる。あーん」
そう言われると食べざるを得ない。差し出されたケーキをパクッと口にした。
「もう、ええ。十分や」
「美味しいのに…」
「酒飲みの上に甘党って、糖尿病になるで」
そう言いながら、由羅の口元についたクリームを指で拭ってやる。その指を舐めながら“たまには甘いもんもええかな”と玄太は思った。
「これ、クリスマスプレゼント」
由羅が残ったケーキを冷蔵庫に閉まっていると、玄太が紙袋を二つ持ってきた。
「これ…スマホ?」
「そうや。もっと早く買うべきやったのに、この前電車が止まった時まで思いつかんかった」
「…すごい…」
袋を開けた由羅は絶句した。
「電話でもメッセージでもくれたら、迎えに行けたのに。ホンマ、すまんかった」
「玄さんのせいじゃないよ。公衆電話から電話できたのに、俺がテンパってて忘れたんだから」
丁寧に箱を開けた由羅が、スマートフォンをそっと取り出した。
「高かったでしょう…」
「そうでもない。ポイントがあったから」
「嬉しい…どうしよう…」
「どうもせんでええけど、早く使いこなせるようになって俺にも教えてくれ」
「玄さんも?」
「お揃いで買ってきた。」
自分の袋を開け、並べてみせる。
「嬉しい…」
口を押さえる由羅の目からポロポロ涙が落ちてきた。
「喜んでもらえると俺も嬉しい」
「ありがとう…」
スマホを握って涙する由羅を玄太はギュッと抱きしめた。
「買い替えるの面倒くさいなって、ずっと思ってた。でも由羅とメールしたり、電話したりできることを考えたら、すぐにでも欲しくなって、あの次の日予約に行った。由羅のおかげで俺もガラケー卒業や」
由羅のおかげで欲しいものが増えた。服も家具も食器も家電も、そして時間も。あってもなくても、どうでもよかったのに…由羅が来てから、一緒に選べたら、一緒に使えたら、一緒に過ごせたらと思うようになった。
やっぱり由羅は俺の救世主や。そう思いながら、玄太は力いっぱい由羅を抱きしめた。
「俺…玄さんにあげられるもの、何もない」
泣き止んだ由羅が体を離して申し訳なさそうにうつむく。
「たくさんもらってるで。スマホ程度じゃ由羅の方が割りに合わへん」
「俺…何かあげたっけ?」
「毎日もらってるけど、由羅は知らんでもええわ」
俺が毎日あげてるもの?料理してるから?洗濯してるから?
「もう寝るぞ。明日、仕事や」
スマホを握ったまま考え込む由羅の肩を、玄太が優しく叩く。
「電話は箱に閉まっとけ。そんで明日、俺の分も研究しといてくれ」
玄太が布団を敷き始めた。
「歯磨いてこい。寝るぞ」
我に返った由羅は洗面所に向かった。
「なぞなぞの答えは?」
布団に入った由羅が玄太の手を取って訊いた。
「なぞなぞちゃうで。っていうか知らんでええ」
「気になるじゃん。教えてくれないと手を離すよ」
「ええで」
そう言われ、由羅は離しかけていた手を握りなおした。
「気になって眠れないよ」
「気にせんでもええ。おやすみ」
額にチュッとキスをされ、由羅が真っ赤になった。
「これが答えや」
由羅の存在が玄太にとって最高のプレゼント。スマホなんか比べ物にならない。でもそれを口にしたらサムいやろな。玄太はそう思いながら眠りについた。
一方由羅は、ドキドキして余計眠れなくなっていた。だから規則正しい寝息を立て始めた玄太を見つめる。
玄さん…大好き。ありがとう。結局、答えは分からなかったけど、俺があげられるものなら、玄さんが欲しいだけいくらでもあげたいな…そう思いながら由羅も眠りについた。
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