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第13話 二人の年末年始

 大晦日。  大掃除を終えた玄太は、おせち料理を作る由羅に付きまとっていた。 「玄さん…あっちで大人しくしててよ」 「手伝えることがあるやろ」 「ない」  さっきは茹でたサツマイモを軽くつぶしてと頼んだら、力を入れすぎてスプーンを2本折ってしまった。卵を割ってと頼んだら、力の加減ができないのかボールに殻がいっぱい入っていた。 「手伝いたい」  大きな体を丸めて、右から左から自分を覗き込む玄太の姿に、由羅の口元には自然と笑み浮かぶ。 「じゃあ、大根の皮むいて」  大根1本と皮むきを渡す。以前にジャガイモの皮むきを手伝ってもらった時は、なぜか前腕を皮むきで切ってしまった。でも大根なら大きいし大丈夫だろうと思っていると… 「うわっ」 「大丈夫!?」 「大丈夫…」  親指から血が流れている。 「大丈夫じゃないじゃん」  由羅はとっさに玄太の手から大根を取り上げ、血が流れる親指を口にくわえた。    くわえられた指を吸われ、玄太の右手から皮むきが落ちた。 「ちょっと、待ってて」  くわえていた指を今度は玄太の口に入れ、由羅が立ち上がった。 「これで大丈夫かな…」  由羅が絆創膏を持ってくるまで、玄太は放心状態で心臓だけが激しく動いていた。 「よし。大人しくしてればすぐに止まるよ」  ポンポンと玄太の頭を叩き、ニッコリと微笑んだ由羅が皮むきを持って立ち上がった。  シンクで皮むきを続ける由羅を、玄太が後ろから抱きしめた。 「どうしたの?痛い?」 「痛くないけど…」 「玄さんて、甘えん坊なんだね」  皮むきを続けながら由羅が微笑む。 「でも、これだと料理できないから、少し離れて見てて」 「もう少しだけ」 「しょうがないな…豆が煮えるまでだよ」  大根の皮を剥き終えた由羅は、まわされた手をギュッと握った。 ***  出来上がったおせち料理を詰めた重箱が二つ並んでいる。 「何で二つあるん?」 「アゼリアに持って行こうと思って。元旦は常連さんが来てパーティするんだって」 「由羅も行くんか?」 「玄さんも行くなら行くけど…俺たちがいても肩身が狭いって言うか、ちょっとつらいと思うよ」 「そやろな」 「だから、お重だけ置いて帰ってくる」  二人は蕎麦を食べながら紅白を見て、二年参りに出かけた。 「けっこう人多いね」  歩いていける距離にあるマイナーな神社。それでも参拝客がちらほら見える。 「いつもは誰もいないのに」 「こういう時だけでも拝んどかなな」  参拝をすませた二人は健康祈願のお守りを買った。 「健康第一やから」 「そうだね。神様には何をお願いしたの?」 「言うたら叶わへんやろ」 「そっか」  フフッと由羅が微笑んだ。  由羅は何を願ったんやろう…と、玄太は気になった。だけど、言ったら叶わないと自分で言ってしまった以上、聞くことができない。それでも、それがどんな願いであっても、必ず叶えてやってくださいと、玄太は心の中で再び手を合わせた。 「やっぱり寒いね」  由羅が両手をこすり合わせてはぁーと息を吹きかける。 「ポケットに入れとけ」  両手をポケットに入れようとする由羅の右手を玄太が掴んだ。 「こっちは俺が温めたる」  そして大きな左手で由羅の手を包むように握りなおす。 「玄さんの手、冷たいよ」 「由羅の方が温かいな」 「これじゃ俺が温めてあげてるんじゃん」 「何か、得した気分やな」 「俺は存した気分だよ」  それでも二人はしっかり手をつないだまま家まで帰った。 ***  一日の昼ごろになって起きた二人は、車でアゼリアに向かった。 「由羅君!」  マスターが由羅をギュッと抱きしめた。 「おせち持ってきました」 「ありがとう。メールもらって、みんな大喜びしたんだよ」 「味は保障できませんけど…」 「美味いですよ。めっちゃ美味いです」  玄太が横から口を挟んだ。そしてマスターの顔を見て頭を下げた。 「明けましておめでとうございます」 「おめでとうございます。山崎さんも座ってください」  パーティはまだ始まっていないはずなのに、すでに何人かの常連が来ていた。 「すぐ、おいとましますんで…」 「まあ、まあ」  お茶とお菓子を出され、玄太はソファーに座った。由羅はマコト君とカウンターでコップの準備を手伝っていた。 「ノブちゃん、友達の家に行くって言ってたけど…」 「友達っていうか、カレシだよ。相手がノブちゃん一筋で、毎日来ては僕と話しながらノブちゃんだけを見つめてた」 「そうなんだ…」 「背が高くて、小顔で僕のタイプだったのに…ノブちゃん以外、視界に入ってないんだもん」  男には興味がないと言い切っていたノブちゃんが?と疑問に思ったけど、電話の声が幸せそうだったから…相手が友達でもカレシでも、どっちでもいいやと由羅は思った。  ふとフロアを見ると、玄太が常連のお客さん二人に挟まれている。 「腕、太いですね…触っていいですか?」 「…は、はい…」 「すごい…硬い…」 「僕も触っていいですか?」  両腕を触られながら、動くこともできずに困った顔をしている玄太。由羅はとっさにカウンターを出て玄太の前に立った。 「玄さん、行こう」 「え?」  触られている腕を奪い取って、玄太を立たせた。 「マスター、これで失礼します」 「もう行っちゃうの?」 「行くところがあるので」 「失礼します。また寄らせてもらいます」  慌てている様子の由羅に戸惑いながらも、マスターに頭を下げる玄太。 「気をつけて」 「玄さん、行くよ!」  すでにドアの外にいる由羅が大声で玄太を呼んだ。  由羅君たら…ペコっと再び頭を下げて店を出る玄太を見ながらマスターが微笑んだ。 「あんなにすぐ出てきてよかったんか?」 「いいんだよ」  由羅は思い切り不機嫌な顔をして前を見つめている。 「他のスタッフにも挨拶したかったやろ」 「いいの。俺が一人で行って挨拶するから」 「なんや…機嫌悪いな…」 「親方に挨拶に行くんだろう。早く行かないと約束の時間に遅れるよ」  まだ余裕やろう…玄太は思いながらも、不機嫌オーラ満載の由羅に、何も言えずに車を走らせた。

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