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第17話 間一髪

 オーディション兼実技試験で、なぜか学校のお偉いさんの目に止まった由羅は、開講前から歌のレッスンを受けることになった。ここで由羅に才能ありそうなら学費は全額免除になるらしい。  遅くなっちゃった。ここ突っ切っちゃお。  レッスンが長引いたため、駅に着いて玄太に電話をした後、由羅は急いで家に向かっていた。  その公園は街頭が壊れていて薄暗く、危ないから夜は入るなと言われていた。だけど、ここを突っ切るのが一番の近道。それに男の俺が襲われることはないだろう、走り抜ければ大丈夫と、由羅は軽く考えて公園に足を踏み入れた。 「おい。」  由羅の前に5人の男が立ちはだかった。ヤバい…遠回りすればよかったと後悔しても遅かった。 「金だせ」 3人までなら、殴り飛ばして逃げられる自信がある。だけど…5人は無理だろう。そう判断した由羅は仕方なく財布を出そうとした。 「金は、いらねえ」 「なに言ってんですか先輩」 「俺の好みなんだよ」 「はい?」 「すげぇ、マジタイプ」 「マジっすか?」 「おまえら、押さえてろ」  2人の男が由羅の手を押さえにかかる。 「やめろ、放せ!」 「うわっ!」 「こいつ…」  暴れて逃げ出そうとする由羅を今度は4人がかりで押さえつけた。 「うっ!」   下腹を殴られた由羅の顔がゆがんだ。その顔を見たリーダーらしい男がニヤッと笑う。 「マジで可愛い顔してんじゃん」  ヤバい…この状況って…俺、強姦されるのか?店で話には聞いてたけど…ここってそういう場所じゃないだろう…  羽交い絞めにされ、さらにその腕を片方ずつ男につかまれている状態でも、なぜか由羅は冷静だった。舌を噛み切られるから…キスはされないはず。上も…無理やりヤるのに脱がされることはないから…下だけ脱がされて…いれられた後、他の男のをくわえさせられるって感じかな…  案の定、彼はニヤニヤしながら由羅のベルトを外し始めた。 「泣きわめけよ」  そう言われても泣きわめく理由がない。これからされることは、ある程度予測できるし、叫んだところで助けが来るわけじゃなし… 「火事だ!!」  そう聞けば周囲が飛び出してくるからと、以前ノブちゃんに教えてもらったことがある。 「火事だ!!誰か!消防車!!うっ」  下っ端の男に口をふさがれた。 「こいつ…頭、大丈夫か?」  誰かがさっきのを聞きつけて来てくれれば…  由羅の願いもむなしく、ジーンズが下着ごと引き摺り下ろされた。そして4人がかりで腕と足をつかまれ、リーダー格の男に背中を向けさせられる。 「やっぱ、ケツ、超可愛い…」  こんな暗くて見えんのかよと心で悪態をつきながら、男なんだ、これくらい…と諦めていた時… 「由羅!」  点滅する街頭に照らされ、玄太が現れた。 「由…おまえら…殺す…」  由羅の姿を見た玄太の目に殺意が走った。  瞬間…あっという間に5人の男が殴り倒され…由羅は下着をあげるのも忘れて、呆然と玄太の速さに見入ってしまった。 「うわっ!」  殴り飛ばされたリーダー格の男に玄太がのしかかる。 「殺す…」  何度も男に拳を振るう玄太。その光景を見て我に返った由羅は、下着とジーンズを上げながら駆け寄った。 「玄さん、ダメだよ!待って!!」  すでに気を失っている男に向かい、振り上げた玄太の腕を全身で止める。 「放せ。殺す…殺したる…」 「未遂だから!落ち着いて。玄さん!!」  由羅に抱きつかれた玄太が正気を取り戻した。 「誰か来る前に逃げよう。早く」  由羅は玄太の腕をつかんで全速力で家に向かった。  部屋に入って玄関に座り込み、二人は肩で息をしていた。 「ハア…ハア…よかった…誰も…追って来なくて…」  玄太は拳を握り締めたまま肩を上下させている。 「また…殺してまうところやった…」 「え?」 「また…人を殺してまうところやった…」 「またって何だよ!あれは事故だったって言ってるのに!」 「俺が怖いやろ。キレたら何するか分からへん」 「怖くないよ。玄さん格好良かったよ。未遂だったけど…マジで間一髪だったから。1分遅れたら犯されてた」  握り締める玄太の拳が震え始めた。 「大丈夫。脱がされただけだから。他は何もされてない。ホントに大丈夫」 「おまえが止めへんかったら…殺してた」 「俺のために怒ってくれたんだから…俺が悪いんだよ…危ないって言われてたのに近道したから…」 「由羅…おまえ、ここを出て行った方がええかもしれへん」 「なに言ってんだよ!」  由羅は玄太の大きな両肩を掴み、力一杯揺さぶった。 「怖いやろ…ホンマに…キレたらおまえを殺してしまう」 「落ち着いて。玄さん俺にキレる気ないでしょ?それに玄さんがキレたら、そんなことする方が悪いんだし…俺、玄さんになら殺されてもいいし…今日の玄さん、すごく格好良かったんだよ。俺はヒロインじゃないけど…ヒロインの窮地を救うヒーローみたいだった」  にこっと微笑みかける由羅を見て、玄太の強張っていた表情が緩んだ。 「もっと早く止められたのに…俺、パンツ脱がされた間抜けな格好のまま見とれちゃったんだ。玄さん、すごく格好良かった」 「…そ、そうか…」  キラキラした目で言われ、思わず赤くなり目を泳がせる。 「玄さん、アクションスターになりなよ。イケメンだし、体も格好いいし」 「なに言うてんねん…」 「背も高いし…声もいいし、その上アクションもできるんだから、オーディション受けてみない?」 「アホか…」 「俺、結構マジなんだけど?」 「もうええわ、風呂はいって寝るぞ」 「え、本気で考えてみなよ」 「はいはい。先はいるで」  立ち上がり風呂場に向かっていた玄太が戻ってきて由羅を抱きしめた。 「玄さん?」 「怖かったやろう…」 「大丈夫だよ」 「ホンマに何もされてへんねんな?」 「うん。あ、お腹を一発殴られた」 「ここか?」 「う、痛い…」 「見せてみろ」  体を離して由羅のTシャツをめくる。 「冷やした方がええかな…」 「大丈夫。殴られる瞬間、腹筋に力入れたから。すぐ痛みも取れるよ」 「おまえ…意外にケンカ慣れしとうねんな…」 「家に通報されない相手とだけね」 「それって…余計あぶないんちゃうん…」 「いいから、早くお風呂使ってよ」 「ああ…」  もしかして…俺より強いんちゃうか…と、複雑な気持ちで玄太は風呂に向かった。

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