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第10話 武家屋敷
「あのじい様を知ってるの?」
「ええ、ご近所だから。
犬を連れて帰らなくちゃいけないの。
犬のご飯の時間。一緒に来る?」
「え、いいの? 月、どうする?」
「迷惑でなければ行ってみたい。」
三人と一匹でゾロゾロと歩いて行った。
昔はお屋敷町で武家屋敷が続いていた通りの一角に長屋門が見えて来た。その奥に数寄屋造りのお屋敷が見える。『沼田』の表札を掲げた門から番人が出て来た。
「タケル様,おかえりなさい。
小次郎、ご飯だよ。」
「執事の加藤よ。
加藤、お客様よ。須佐さんご兄弟。」
「どうぞ、お上がりください。」
時代劇に出て来そうなキリリとした執事が案内に出て来た。
(尊って何者? すごい家だな。
出雲の家は神社だから立派だけど、民間人のお屋敷って?江戸時代か?)
「須佐さんたち、お昼を召し上がれ。」
奥座敷に通され、食事が出された。思いのほか質素な昼食。ざる蕎麦だった。他には何もない。
二人とも蕎麦は大好物だ。出雲そばは有名だから。
「いただきます。あの、お代わりありますか?
ざるなら五枚は、いけるんで。」
月夜見が言った。
「はい、加藤に言うわね。」
厨から加藤が積み上げて運んできた。
「江戸前の蕎麦もいいでしょう?
たくさん召し上がれ。」
二人は遠慮なくいただいた。
「私の部屋に行きましょう。」
回廊のような縁側を兼ねた廊下をぐるりと歩いて庭に面した和室に案内された。
庭の池が縁側の下まで続いている。まるで水の上に建っているようだ。
真っ白い障子が目に染みる。
「きれいな庭ですね。
出雲の須佐神社にも大きな池がありますよ。
今の季節なら睡蓮が見頃だ。」
「ここには錦鯉がいるわ。」
尊が手を叩くとたくさんの鯉が集まって来た。
餌を投げてやっている。月も手伝って投げる。
「キミは何者? ここの子供じゃないでしょ?」
「ここは,作家の沼田礼門のお屋敷です。
私は礼門に囲われている愛人とでも言えばいいかしら。」
(ああ、この人も誰かのものなんだ。)
摩利彦と月夜見は顔を見合わせた。
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