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第11話 特別受益の儀

 その夜は、ロジャーとミトがあの倶楽部に顔を出した。稔彦とミトは、出雲で愛し合った過去がある。こっちに来てからは何もない。  出雲の須佐神社で育った稔彦は、複数の妻と子供たちと一緒に暮らしていた。  悠久と思われるほど長い年月、隔絶された山の奥で何不自由なく暮らしていた稔彦だが、たまたま山を降りて遊びに行ったあの倶楽部で、ミトと出会い恋をした。その後、出雲まで追いかけて来たミト。下界では、3年の月日が過ぎていた。  お山の時間。ミトの感覚では、三日しか過ごしていなかった。ミトはロジャーの元に戻った。  見送りの時、お山に摩利彦と月夜見もいた。 「覚えているよ、ミトさんの事。 俺の母親が般若の形相で見送った美しい人。  お変わりなく、お会い出来て光栄です。」  月夜見も覚えていた。ご老人がミトに帰る事を促して摩利彦がお供するように、神職を解いた。  一子相伝の血脈の譲渡。特別受益の儀、を執り行うのを月夜見も母の凪子と共に見ていた。 「母様、ミトさんは美しい方ですね。父様を連れて行ってしまうのですか?」  父を連れ去られて以来、出雲の須佐神社は全て摩利彦の肩にかかって来た。 「双子の弟たちが12才になったら、あるいは摩利彦たちが18才になったらお山を降りてもいいぞ。」  毎年十月、神無月に訪れるご老人が約束してくれた。ここでは十月は神有月というのだが。  そうやって18才を心待ちにして来た摩利彦と月夜見だった。  ここに来てすぐに父の恋人を寝取る、なんてとんでもない事を仕出かした摩利彦だった。  夜、日が暮れてからあの倶楽部にやって来た。 タキシード姿のスマートな鮫島さんがいた。 「鮫島さん、父はどこにいますか?」  昼間、公園の散歩から戻ったら、もう父の稔彦は出かけた後だった。 「夜は短い。ミカドさんの所ですよ。」  二階にミカドの部屋がある。客を取るための仕事部屋だが、ほとんどの場合、貸切で稔彦専用だった。  今夜はロジャーとミトが来ている。鮫島が 「五十嵐様、今夜はミカドさんはお客様の貸切で もうどなたも予約を受けません。」 「いいんだよ。ミトと来てるんだ。 余計な心遣いは無用だ。」 「は、失礼しました。」  このやり取りを、摩利彦と月夜見は見ていた。 「あーあ、ミカドさんはプロなんだ。」

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