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第14話 正気の境目
「ふぅーっ。」
息を吐いて腕を締め付けるゴムチューブを外す。投げ出されたポンプ(注射器)と、グッタリと虚脱したミカドがいる。
内鍵もしっかり掛けた。
あの倶楽部の『ミカドの部屋』
もう朝日が昇る時間でミカドは逃げ遅れた。
魔法が解けて、シワだらけの老婆が横たわるベッド。昨夜、愛された名残りが残る部屋で一人きり。ミカドが眠る。
自分を覚醒させる麻薬はいらない。しばらく前から夢の中へ連れて行ってくれるダウナー系の薬の虜だった。いつも精神科の主治医に処方してもらうアヘン様の薬。麻薬だ。
ミカドは自分の容姿の衰えに耐えられない。
薬を出してもらう浅田病院。違法でも出してくれる。主治医はミカドがすでに薬中毒なのを知っていて出してくれる。違法薬物とわかっている。
「先生、眠れないのです。」
ミカドは自分の恐怖を知っている。あれほど美しかった自分の容姿が、今は直視できない。
主治医はミカドの商売も知っている。
「ある意味,ニンフォマニアなんですね。
性に依存している。性行為と薬物は切り離せない。彼は生まれながらの性同一障害なんです。
彼の自分自身の自尊心の根拠は、自分の外見と強くつながっている。」
看護師たちが言う。
「どこにも衰えなんか無いわ。美しい人。
なんであんなに絶望してるのかしら。」
「私があの方の美貌の半分でも持っていたら
神に感謝するレベルだわ。」
今でも充分に美しくスタイルもいい。
特にあの倶楽部の営業中は輝くばかりの美貌なのだった。あの場所で、だけ。
「明るいところでは誰にも会えないわ。」
たまにロジャーと倶楽部で出会うといつも驚いてその若さと美貌を褒めてくれる。
だからミカドはロジャーが大好きだ。もう長い付き合いだった。
ピアノを弾き終わったロジャーがVIP席に戻って来た。ミトが待っている。そして尊も輝くばかりの若さを振り撒いて取り巻きたちと話をしている。
ロジャーのご指名でVIP席に入っていったミカドは、尊とミトを見つけた。
「こんにちは。こんばんは,かしら。」
誰が見てもミカドの色気に若者は勝ち目はないと映る。ロジャーの肩に抱きついて熱いキスをしている。隣に座るミトは気まずい。
「いつも朝になる前に帰ってしまうね。
相変わらず美しいけど。」
「ロジャーも素敵だわ。
私は陽の光で灰になってしまうのよ。」
「ドラキュラ伯爵のようだね。」
「たまには私と遊ばない?」
「冗談だろ。残念な事に、私はミトにしか反応しなくなったんだよ。
お互いにもう年だね。」
長い付き合いのロジャーは残酷なことを言った。
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