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第30話 逆立つ
玉藻が喉の奥で小さく唸り声を上げている。
「グルルゥ。」
「待って、みんな静かに。」
尊の声に、玉藻が四つん這いになって尻尾を逆立てて唸っている。
「玉藻、どうしたんだよ。」
「ガルルゥ!」
月夜見が玉藻を抱きしめた。玉藻の口からシューシュー息が漏れる。睨んでくる。
「落ち着け玉藻!尻尾が出てるぞ。」
玉藻はハッとして尻尾を引っ込めた。月夜見が宥めて、やっと美しい女性に戻った。
「玉藻、どうしたんだ?」
「うん、何だか野生的な匂いがしたの。」
「確かに野生的なマッチョマンだね。」
尊が歩いて来てスタッフの中の一人と抱き合った。すごくハンサムなスタッフだ。
悲しそうな目をして礼門が見ている。
「彼は十蔵(じゅうぞう)今は私の恋人よ。」
礼門が近づいて
「キミたちは理解できないかもしれないな。
私は二人を応援しているんだよ。」
尊が十蔵と呼ばれた男の首に両腕を回して抱きついた。熱いキスをしている。
摩利彦と月夜見は思わず礼門を見た。
「そんな哀れみの目で見ないでくれ。
私は作家だ。精神のマゾッホを描くのだ。」
「礼門は、私が他の後かに抱かれるのを見るのが好きなの。」
ギリギリと目から血が吹き出しそうな、苦しそうな礼門に摩利彦たちはいたたまれなくなった。
「俺たち、帰るよ。お邪魔しちゃ悪いから。」
「ここにいてくれないか?
私の受ける屈辱を見届けて欲しいんだ。」
「嫌だよ。俺たちを巻き込まないで。」
摩利彦と月夜見はドアを開けてズンズン歩いた。中々帰りつかない。長い廊下だ。長すぎる。いきなり手を掴まれて
「こっちよ。」
さっきまで見えなかった階段を降りた。手を引いてくれたのは玉藻だった。
降りたところに鮫島がいた。
いつのまにか玉藻はいなくなっている。
「摩利彦と月夜見?二階で何してたの?」
「え、と、礼門の部屋にいたんだけど
内輪揉めになりそうで逃げて来た。」
すごいマッチョなスタッフがいたことを話すと鮫島は訳知り顔に
「礼門と尊のお楽しみなんだよ。
イケメンのスタッフは彼ら二人のスパイスなんだ。」
もう摩利彦と月夜見にはサドとかマゾとか
どうでも良くなっている。鮫島に
「サドの愛好家の集まりがあると古今東西の
SM の話で盛り上がるんだよ。」
その時、また、おいで、と言われた。
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