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第32話 溜まり場

 あの広尾の喫茶店『カフェ シャインマスカット』以外に仲間が溜まる場所は、霞町の公団だった。もう立ち退きを迫られている廃墟化した建物だ。数年後には取り壊しが決まっている。  空き部屋がほとんどで、老朽化した団地は、行き場のない老人が少し残っているだけだ。  後は、親が借金で夜逃げした空き部屋に勝手に集まる半グレたちだ。薬物の取引場所にもなっているらしい。  鈴木良太の住まいはそんな所だった。安い家賃を母親が払い続けてくれている。 「俺は親に置いて行かれた。捨てられたんだ。」  児童相談所に通報されれば即、保護対象の数年間を隠れて過ごし、やっと18才になった。もう文句は言わせない。  この団地はある意味治外法権だ。誰も他人の事に関心はない。  学校も書類が揃っていれば問題はない。親が住民票のあるこの団地に、良太を置き去りにしている。抜け穴だらけの法律だ。 「いいよなぁ、良太は自由で。」  良太が中学生になった時、 「今日から家族は解散だ。卒業,卒業!」 突然,勝手に父親が宣言した。元々親らしいことは何もしない父だった。顔を見れば殴る蹴る、タバコを押し付ける。  母は姉を頼って出て行った。姉は新宿で風俗嬢をやっているらしい。良太も姉も外見に恵まれている。美人でスタイルも良い、姉はそこそこ稼いでいるらしい。良太も美しい青年だった。  いずれ、高く売り飛ばそう、と母親は考えているらしい。父親はホームレスになってたまに帰ってくる。良太のバイトで貯めた金を取り上げに来る。良太は地味に解体屋の手伝いをしたり、半グレのパシリをしたり、日銭を稼いでいる。 「あーあ、なんで俺、高校生なんかやってんだろ?」  そんな良太の家は仲間が集まりやすい。悪ガキの溜まり場だ。  五階建てエレベーター無しの団地の階段に、ある朝、女が倒れていた。  良太は関わらないつもりだった。警察は苦手だ。午後になってもまだ倒れている。 (生きてる?)  靴の爪先で突っついてみた。 「うーん、何すんだよ。」  ふらっと起き上がって悪態をついてくる。 良太はムカついたが、目障りだ。 「どこかに行ってくれ。 なんだ生きてんのか。ここに住んでんの?」 「うん、、そうそう友達が住んでるはず。」 「名前は?その友達の。」 「沢井信治。」  この辺りで有名な半グレの名前を言った。 沢井はシャブの売人だ。 「あんた、警察行った方が良さそうだな。」 「やめてよ!警察はいやだ。」  不自然に開いた手を見た。女の手は指が曲がらなくなっている。ジャンケンのパーの形のままだ。シャブ中が指の間に注射する。常習犯の手だった。 「おまえ、シャブ食ってんの?」

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