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第54話 二人の空間
長い指が鍵盤を滑って行く。この前、調律したのがいつの事だったのか、わからないようなピアノだが、その旋律は心に沁みる。
放課後、海斗は月夜見が来るのを待つようになった。ここに来れば会える。教室とは違う。
二人だけの空間。軽音の部室。
月夜見はピアノが弾きたい、という言い訳を口実に、本当は海斗に会いたい。
海斗がギターを爪弾く。
「今のメロディーは何?」
「俺が作った。」
「綺麗な曲だね。海斗ってロマンチスト?」
「恥ずかしい事言うなよ。」
俯いてピックをつまむ指先に恋した。少し長い髪が癖があって横に分け目がつく。
脱色した薄茶色い髪は,軽やかでメガネをかけた額にかかる。時折り長い指でかき上げる。その仕草がセクシーだ。
「指、長いね。」
「月だって長いじゃん。
ピアノ弾いてるとカッコいいよ。」
思わず見つめ合う。
(ああ、月の黒髪に手を入れて抱き寄せたい。)
頬を染めて月は目を逸らす。
「そう言えばタスクが何かに取り憑かれていたの、どうなった?」
「あれから,知り合いの神主にお祓いをしてもらったんだ。」
あのご老人は神主でもある。10月には出雲に集まる神々の一人だと月は思っている。
摩利彦と月夜見も神職なので揃ってあの団地にお祓いに行った。
その事を海斗にわかりやすく話す。
「あの後、タスクは具合が悪くなったんだ。
あの高速の下の歩道に占いのお兄さんが出てるの、知ってる?」
「ああ、地下鉄の駅に降りる階段の所。
たまに卓がでて、灯りが灯る。」
「そう、タスクがその人に、死相が出てる、って言われたんだ。
あの団地の悪霊がタスクに憑いて来てた。
俺の親戚のおじいちゃんから悪霊退散の香水をもらって振り掛けて逃げたってわけ。」
「それですごくいい匂いがしてたんだね。」
その匂いに誘われて思わずキスしてしまった事には二人とも敢えて触れない。
「日を改めて地鎮祭をやったんだ。完全に祓えたと思う。」
月夜見はケロリと話しているが、大変な事だったに違いない。
「無事で良かった。」
二人はまた、近寄ってくちづけをした。
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