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第56話 反転
玉藻が月から離れない。
「もう、一件落着したんだから、肩から降りてよ。重たいよ。」
お祓いもしたし、あの勝手に持ち出した勾玉も弥勒に返した。祟られる筋合いはない。
「だって月夜見は私のものでしょ?」
「え?いつからそうなった。」
あの稲荷社で綺麗なおばあさんが迎えてくれた。
「まあまあ、玉藻ちゃん、意味なく人に取り憑いては、いけないわ。」
「あのぅ、どちらさん?」
「ああ、はじめまして。玉藻たちの面倒を見ている弥勒菩薩と言います。
ご近所さんね。よろしく。」
気さくなおばあさんだった。玉藻は尻尾を下げて肩を落として引っ込んだ。
「はああ、何か疲れたな。憑かれるよりマシだけど。」
「ダジャレ?疲れると憑かれる。」
腑に落ちない事はたくさんある。
これで一件落着とは行かないだろう。
公園のベンチに座った。いつの間にかあの倶楽部の隣の神社公園に来ていた。
「摩利彦が呼んじゃったの?」
「いつもこの辺は迷うんだよな。」
向こうからデカいチワワが走って来た。
「尊?」
「ああ、会えたね。いつも偶然だね。」
「GPS付けておいてよ。ここわかりにくいんだから。」
「ああ、ここは異世界だから。」
「異世界とか、もうお腹いっぱいだ。」
摩利彦と月夜見は、目の前で世界がグルンッと変わるのが見えた。
「摩利っ、俺、大概の事は驚かないけど、ここはどこ?尊と小次郎はどこ行ったの?」
月の叫び声が虚しく響く。摩利彦の姿も見えない。
霧が出て来た。霧の中に薄ぼんやりと女の人が見える。和服を着た綺麗な人。
目の前に細い道が続いている。
「こちらです。真っ直ぐ行くと小さな橋がありますからそれを渡ってくださいね。」
「待って。」
女の人は霧で見えなくなった。ハッとして月が振り返ると,そこには公園もベンチも神社も無くなっていた。
(ああ、この感じは知っている。
黄泉の入り口だ。)
なぜ月が知っているのか、月にもわからなかった。遠い記憶。
お話の世界なら、誰かが出て来て納得できる説明をしてくれるはず。虚構の世界なら、オチがあるはずだ。
でも、ここには何も無い。何もない事を月は本能で知っている。知っているから恐ろしいのだ。
世界はまだ形がなかった。混沌だった。
父なる存在が混沌をかき混ぜる。
母なる存在が孕んで生み出す。
(やっぱり、女の方が苦しい思いをするんだな。)
月夜見は答えのない事を取り留めもなく考えていた。
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