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第58話 会いたい

「玉面(たまづら)に会ったよ。」 言い伝えがある。昔タヌキは、たまづらと言われていた。愛嬌のある丸顔のせいか。  古狸の玉梓は、江戸時代、悪巧みを見つかって処刑されるところだった。  ずいぶん長く生きて来たから、またもや生き延びたのは不思議だった。  玉梓の思念は、死なない事が贖罪だった。しかし、誰に生かされているのか? 何の力が働いているのか?  八百比丘尼の寓話は、あながちただの伝説ではないのだろうか。何度も生まれ変わって繰り返す。 出雲での三日をこちらで三年過ごしたミトなる青年も、古今東西、口伝になっている浦島太郎の話に似ている。リップヴァン・ウィンクルの話も同じだ。 「月夜見が起きたぞ!」 「しっかりしろ。」 「あ、摩利彦。俺、海斗に会いたい。」  目覚めて最初の言葉が海斗だった。 眠っていたわけではない。かなり疲れている。 ずいぶん長い旅をしたような気持ちだった。 「帰ろう。」 「えっ,ここはどこ?」 「玉藻の部屋だよ。」 摩利彦が言った。 「玉藻たちが興奮してたよ。 狸穴の連中の親玉に会ったんだってな。」  月夜見だけが違う時間を体験したのか? 「黄泉平坂はこの近くにあったんだ。 玉梓さんに助けられた。」 「おまえ、引っ張られなかったんだね。」  あの世に近い所にいたようだった。 「あの狸穴の狸たちが大騒ぎして月夜見を守ったらしいわよ。」 「狸は,そそのかしたわけじゃなくて守ってくれたんだな。」  外に出るとあの稲荷の社だった。今までいた玉藻の部屋は、かなり広くて居心地も良かったが、この社のどこにそんなスペースがあるんだろう? 「狐臭くなかったし。」 「いてっ。」 お尻を思い切り抓られた。  摩利彦が笑って、 「海斗に会いに行けよ。いつ、何があるかわからないんだから。あの世の入り口まで行ったんだろ!」 (どこへ行けばいいのかわからない。)  海斗は青山一丁目で電車を降りるって言ってたのを思い出した。このご時世に連絡先もわからないのだ。一応スマホは持っている。  地下鉄に乗って青山一丁目で降りた。地上に出ると国道沿いに『ドアーズ』のデッカい看板が見えた。アメリカのスーパーマーケットだ。カッコいい。  裏口から高校の制服姿の海斗が出て来た。 「月夜見!」  声をかけて走ってくる。 月は、今生の別れから、やっと巡り会えたような気がした。 「海斗っ。」 「今日は早いんだ。深夜の時もある。 俺に会いに来たの? そんなわけないか。」 「うん、海斗に、会いに、来た。」 見つめあって笑った。 (今まで俺がどこに行ってたか、知ったら驚くんだろうな。)  

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