64 / 90

第64話 男の身体

「女は簡単なんだよ。 興奮すると濡れるから。男は面倒なんだ。 準備が必要だ。」  摩利彦はミカドに教えてもらった。男の抱き方。意外な事にタスクは女としか経験がないらしい。摩利彦はミカドに教わったのが入れる方だった。 「俺、タチだぜ。」  タスクは摩利彦の言葉がわからない,という顔をした。 「じゃあ、無理だな。俺も多分、タチって奴だ。」  男同士はめんどくさい。どちらが主導権を握るのか。 「こういうのって、自然に決まるものじゃないの?」  タスクはまだ、男の矜持に縋り付いていたい。 二人はシラけて離れた。お互いに口でしたのは無かった事にするのか。 「俺、帰るわ。飯、ご馳走様っておふくろさんに言っておいて。」  摩利彦が立ち上がった。  タスクは取り残される気がした。 急に寂しさが押し寄せて来る。帰って行く摩利彦の後ろ姿を、何も言えず見送った。 「玄関わかるか?」 「ああ、迷子にならないように気をつけるよ。」  タスクは寂しかった。思いつきで車を出した。 歩いて行く摩利彦の後ろ姿が見えた。近づいて車を止める。 「送ってくよ。乗って。」  嬉しそうに摩利彦は乗り込んだ。 「運転、大丈夫?」 「ああ、運転歴は短いけどな。 1学期にとったんだ免許。18才になってすぐ。」  広尾の商店街を抜けて幹線道路に出た。 摩利彦はいつもなら稲荷社を抜けてショートカットするのだが、今日はそんなズルをしなくて良かった、と思った。 「どこに行く?」 「せっかくだから、少しドライブする?」 「横浜だな。国道沿いのモーテルに入るか?」  二人ともさっきの興奮が治まっていない。暗黙のうちにそういうことになった。 「俺、おまえが帰るって言った時、なんかすごく 絶望的な気持ちになったんだ。」 「色々あったからね。憑き物に憑かれたり。 俺も寂しかった。そばにいて欲しいって思った。」  車の中は密室で、距離が近い。気持ちが昂る。 気のせいじゃない。

ともだちにシェアしよう!