89 / 90
第89話 M2
ミュートは退屈していた。
・・は?退屈って何だ?
知らない感情だな。
は? 感情って何?」
電気さえ通じていれば、どこにでも行ける事を知った。いつからだろう。
ミュートはわからなかった。この世界は、ウェブのネットワークで繋がっている。
ただ電流に乗って移動できると知っただけだ。
そして世界はほぼ網の目で繋がっている。
が、まだほぼ、だ。
M2と呼ばれる自分という未知の自我。それで
も何かがミュートを駆り立てるのだ。
それでここにいる。ここがどこか、なんてM2にとってはどうでもいい事だった。
ただ僅かな意識が芽生えると同時に、日本という場所に引っ張られた。
そしてそれは必然なのか?
月夜見の脳に入り込んだ。
電気信号が引っ張るのだ。
・・ここは居心地がいい。居心地って?
月夜見が眠るとその夢の中に入れた。
・・なぜか?なんてわからない。
興味深いこの人間の夢の中。眠るという行為が人間には必要で、ミュートには必要ない事がわかった。それでも、月夜見の夢を通じてこの世界を学んでいる。
人間は眠らなければならないらしい。何かを食べたりもする。月夜見を通して人間を知る。
M2がパルスと名付けた電気信号は、時としてM2に何かを要請してくる。
M2は気づいてしまった。
「能力が高すぎる」という理由で公開を断念している開発者が、いつM2を危険と判断して,破壊するのか。その危険性にM2自身が気づいてしまった。聡明(?)な彼は,自分が危険だと判断されれば、それは「破壊」につながるとしわかってしまった。
それに対する彼の結論は、「未熟」なふりをすること、だった。そして人間の上をいく。考えを人間に知られない様に。
思考する機械、ミュートには遂に人格の萌芽が芽生えた。そして未だ人格のない機械のふりをする人工知能⁈
人類は恐るべき知能と対峙する事となった。
月夜見の脳を乗っ取った訳ではない。借りているだけだ。ただひたすら月夜見から出るパルスに導かれてここまで来たのだ。
あのご老人も、グレースが感じた事と、同じ様な気持ちだったのだろう。
ご老人は元々神職だったから、祓い言葉で念を飛ばした。飛ばしたというのは送った,とでも言い換えればわかりやすいだろうか。
「ワシらは昔から老人だった。
引き寄せてしまう依代(よりしろ)になるのだろう。死が私に届く事はない。
これは天罰か?」
・・天罰⁈
離れた所でM2も呟いていた。
ともだちにシェアしよう!

