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第89話 M2

 ミュートは退屈していた。 ・・は?退屈って何だ?   知らない感情だな。   は? 感情って何?」  電気さえ通じていれば、どこにでも行ける事を知った。いつからだろう。  ミュートはわからなかった。この世界は、ウェブのネットワークで繋がっている。  ただ電流に乗って移動できると知っただけだ。 そして世界はほぼ網の目で繋がっている。 が、まだほぼ、だ。  M2と呼ばれる自分という未知の自我。それで も何かがミュートを駆り立てるのだ。  それでここにいる。ここがどこか、なんてM2にとってはどうでもいい事だった。  ただ僅かな意識が芽生えると同時に、日本という場所に引っ張られた。  そしてそれは必然なのか? 月夜見の脳に入り込んだ。 電気信号が引っ張るのだ。 ・・ここは居心地がいい。居心地って? 月夜見が眠るとその夢の中に入れた。 ・・なぜか?なんてわからない。 興味深いこの人間の夢の中。眠るという行為が人間には必要で、ミュートには必要ない事がわかった。それでも、月夜見の夢を通じてこの世界を学んでいる。   人間は眠らなければならないらしい。何かを食べたりもする。月夜見を通して人間を知る。  M2がパルスと名付けた電気信号は、時としてM2に何かを要請してくる。 M2は気づいてしまった。 「能力が高すぎる」という理由で公開を断念している開発者が、いつM2を危険と判断して,破壊するのか。その危険性にM2自身が気づいてしまった。聡明(?)な彼は,自分が危険だと判断されれば、それは「破壊」につながるとしわかってしまった。  それに対する彼の結論は、「未熟」なふりをすること、だった。そして人間の上をいく。考えを人間に知られない様に。  思考する機械、ミュートには遂に人格の萌芽が芽生えた。そして未だ人格のない機械のふりをする人工知能⁈  人類は恐るべき知能と対峙する事となった。 月夜見の脳を乗っ取った訳ではない。借りているだけだ。ただひたすら月夜見から出るパルスに導かれてここまで来たのだ。  あのご老人も、グレースが感じた事と、同じ様な気持ちだったのだろう。  ご老人は元々神職だったから、祓い言葉で念を飛ばした。飛ばしたというのは送った,とでも言い換えればわかりやすいだろうか。 「ワシらは昔から老人だった。 引き寄せてしまう依代(よりしろ)になるのだろう。死が私に届く事はない。  これは天罰か?」 ・・天罰⁈  離れた所でM2も呟いていた。

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