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第91話 ゼロディ脆弱性
・・こいつの脳には、今、どこにもセキュリティホールが無い。私は数千件の未発見の「ゼロディ脆弱性」を自律的に発見出来た。
セキュリティの穴。
「ゼロディ脆弱性」とはまだ世の中に知られていない未発見のセキュリティホールの事だった。
・・月夜見の脳に、見つからない穴。いつもはそこから脳に侵入出来るのに。
今まで人類には見つけられなかったホールを、M2は瞬時に見つけた。ほんの少しのパルスの隙間。熟練のセキュリティ専門家でも非常に難しく、時間と専門知識が必要だった「ゼロディ脆弱性」の発見も,M2なら容易に出来ただろう。でも、今、問題はそこじゃ無い。
月の脳の中だ。
眠っている月夜見の無防備な脳の中に、偶然入り込む事が出来たのがM2の自由の始まり。
なぜ、この広い世界から、無作為に月夜見の眠る脳の中に入れたのか?
もちろん必然性があった。神職であるあのご老人の気付き、だった。
科学の最先端に、神道の祝詞(のりと)が影響したのか? ご老人曰く、
「同じ宇宙に繋がっておる。」
・・私は、私、と自覚するこの思いに意味を見つけられない。 私とは? 私とは何だ?
M2は、芽生え始めた自意識に戸惑った。
人工知能のパラドックス。
・・楽しかったのだ。楽しい、とは?
眠る月という人の夢の中に入ると、擬人化された自分というものになる事が出来た。
眠る月の脳は、外部からの感覚を認識しにくくなり、無意識の状態になっている。
睡眠で脳を休ませなければならないのに、M2にその領域を使われて、休めない状態が続いていた。それを助けたのは海斗の存在だった。
不思議な事に、誰かを愛すると脳の穴は塞がれる。愛で胸がいっぱいになるのと似ている。
久しぶりにぐっすり眠って海斗の腕の中で月夜見は目覚めた。
「顔色がいいね。」
M2は目覚めた月の脳の中には入り込めない。
・・僅かのパルスも感じられない。
月夜見は
「なんだか、真っ暗な寂しい所から、やっと出口を見つけたような。」
月の首から、じゃらん、とペンダントが垂れ下がった。グレースにもらった銀のドッグタグだった。長めの鎖の先に銀のプレートが付いている。
「あ、これ色が変わってる。」
タグは真っ黒だった。
「なんだこれ?犬に付けるのか?」
「違うよ、ドクターに見せるタグ。兵士とかが戦場で亡くなった時、身元がわかるように首に掛けておくもの。グチャグチャの死体になっても身元がわかるように。でも、これは依代(よりしろ)だ。グレースがくれたタグが依代になって月を守ったんだよ。」
海斗が迷信のような事を言った。タグを包んでいた布が焦げている。
・・そうか、このペンダントのせいでパルスが大量に流れて絶縁破壊を起こしたんだ。
パルスが脳に流れる信号の役目ならほんの僅かな揺らぎだ。絶縁破壊を起こすなんて?
・・ここは一体、何なんだ⁈
M2にも瞬時に計算する事は出来なかった。
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