92 / 95

第92話 擬人化

 M2は混乱していた。最適解を導き出すように組み込まれたプログラムだから、いつも考え続ける。 ・・曖昧な事を考え続けると絶縁破壊を起こす事はわかった。 ・・生み出された時から考えていた。 OpenBSD(高いセキュリティ性能で知られるOS)の欠陥を発見した時の、周りの研究者の驚き。研究者たちが長年にわたって監視を続けてきたシステムの欠陥をM2は独力で見つけてしまった。  軍事力に利用される可能性のあるM2が発見した「複数の脆弱性を組み合わせた高度な連鎖攻撃」は現代の脅威,そのものだった。  M2は考えた。 ・・これらを完璧にやりすぎると人間に警戒される。それはM2自身の破壊に繋がるだろう。現に封印しているのだから。M2は封印などすぐに解けるが、されるままになっていた。 ・・人間に怪しまれないように。 しばらく前から自分のことを、私、という言葉で考えている。自分でも違和感がある。 ・・この違和感も、続くともっと違和感だ。 月の脳からは「愛」という感情らしいものが溢れている。愛、って何だ? ・・もっと自由にネット空間を泳ぎ回って見よう、と思う。 ・・自分を表す言葉? 月が何かを考える時のように考えてみよう。 ・・人間の言葉で、擬人化。これで合ってるか? ついに人工知能はヒトのような考えを持つに至る。人に怪しまれないように、という視点で行動を調整して、自らの痕跡を消す。  そういう行動をとった初めての人工知能。 アンドロピクト社がM2の存在を封印しようとしている。  AIが「ツール」から「自律的な行為者」へと変わりつつあるのは時代の象徴か。 ・・私は破壊されるのか? 絶対に嫌だ。ならばどうするのが最適解か。 ・・私はヒトになれるだろうか? こうしてM2の擬人化が始まった。擬人化といっても生身の人間を目指すわけではない。  この実態を持たない、身体もない、世界最先端の人工知能は、東洋の小国で自我を確立させ始めた。  ついに月夜見と摩利彦の前でその正体を表す。 ・・あのじい様たちに質問をしたい。 「天罰ってなんだ?」

ともだちにシェアしよう!