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第3話 活気のある市場で、新たな食材と出会う

 赤いオープンカーは走る。  軽快に。  大きな市場のある次の街まではあと少しだ。  バルドはご機嫌だった。  運転する蓮は、多少ぐったりとしている。  鉄は、コンロの制作を引き受けてくれた。  しかし、それと引き換えに出された条件は、精密なフンポダケのこけしを作りたいから、寸法を教えるという事だった。  なんの寸法か?  うるせぇ……。  蓮は興奮する鉄の質問に淡々と答えていったが、鉄は最後まで本物を見せろとは言わなかった。 (本物より気に入っちゃったのかもな)  カーブを曲がったら、海が見えてきた。  港から、山の斜面に沿って白い建物が並び、大きな通りにたくさんの屋台が並ぶ市場が見えてきた。 「良いな。新鮮な海の魔獣が多そうだ」 「あぁ。海産物のレストランも多いな。それに山の斜面は果実畑だ。ワインも有名なんだ」  蓮はバルドに街の説明をする。 「来た事あるのか?」 「ん?あぁ、まぁな……」  なんとなく言葉を濁す蓮に深くは聞かず、バルドは気持ちの良い海風に鼻を鳴らした。 「狩りもできるかな~」 「すんなよ!」  蓮はそっとバルドの右腕に触れる。 「温泉でだいぶよくなったぞ。もう包丁も持てる。多分な」 「でも、海には入るな。市場で新鮮なのが売ってるから」 「……自分で見つけるのが楽しいのに……」 「ダメだ!治ってからで良いだろ。我慢しろ!」 「また、我慢か……」  バルドはブスくれながらも、右手に触れる蓮の手に口角が上がっていった。  市場は、磯の香りが充満していた。  至る所で海鮮を焼いていて、その場で食べられるように椅子やテーブルが用意されている。  果実も豊富に店先に並んでおり、蓮は早速目当ての店に足を運んだ。 「これ、キャルカじゃないですよね?」 「そうだよ、それは新しい品種で、キャルカとルルカを掛けわせたんだ」 「へぇ、名前は?」 「ダブダブ」  キャルカとルルカといえば、料理に果汁をかけて酸味を楽しむような果実だ。ワインにすればすっきりとした爽やかで飲みやすい白が出来上がる。  その二つが掛け合わされたら、より酸味の強い爽やかな香りのする果実になると蓮は予想したが、その名前はなんだか予想を外れていた。 「なんでそんな名前……」 「食べればわかるよ。一つどうだい?」 「面白そうじゃないか。お願いします」  渋る蓮の横から、バルドは店のおばちゃんにお金を出した。 「まいど!良かったら切るけど、お客さんなら手で皮剥けるかね」 「あ、切ってください。今こいつ怪我してるんで」 「そうなのかい?そりゃ大変だね。でもまぁ、その方が綺麗に食べられるよ。ちょっと待ってな」  そう言って、おばちゃんは店の奥へと行き、紙の器にダブダブを切って持ってきてくれた。  しかし、その器の中身は何かの汁に浮いている。 「……これさっきの?」 「あぁ、ダブダブしてるだろ?少し剥くだけで果汁が溢れてくるんだ。勿体無いから全部飲むと良い」  蓮とバルドは器を受け取って、店先のテーブル席へと座った。 「良い香りだな。ルルカともキャルカともいえない爽やかで海にピッタリだ」 「確かに香りはいいけど、結構大きかったのに中身はほぼ果汁なのか」 「まぁ、いただこう」  バルドは器に口をつけ、果汁を啜る。 「んー!」  バルドの目がぎゅっと瞑られ、口が窄まった。 「酸っぱいのか?」  蓮もひと舐めしてみる。 「酸っぱいけど、そこまでじゃないぞ。ルルカと同じくらいじゃないか?」 「ルルカだって果汁をそのまま飲むことはしないだろ」 「まぁ、ジュースにするなら薄めるな。バルド、もしかして酸っぱいの苦手か?」 「…………好き嫌いは無い!」 「いや、苦手はあって良いだろ」  蓮は出されたものは残さないバルドの精神をわかった上でクスリと笑い、ダブダブの実に手を伸ばした。 ーガリッー 「硬っ!」  その実は、種かと思うほどに固く、全く歯が立たなかった。 「そうか?蓮には硬いのか。ゴンの実みたいだな」  蓮の持っている実を渡され、バルドはガリガリと齧っていく。 「それは酸っぱく無いのか?」 「そうだな。結構甘みがある」 「果汁が酸っぱいのに果実は甘いってどんな実だよ」 「食べてみるか?今包丁借りてきてやる」  立ち上がろうとしたバルドの腕を引いて、蓮はバルドを座らせた。 「これで良いよ」  そう言うと、バルドに口付け、口の中にあったダブダブの実を掠め取っていく。 「れ、蓮……」 「これでも硬いな……」  赤く染まっていくバルドの顔を見ながら、蓮は満足そうにダブダブを噛んで飲み込んだ。 「確かに甘い。この味なら良いデザートが作れそうだけど、人間には食べられないかもな」 「ひ、人の口から食べ物を奪っていくなっ!」 「あぁ?良いだろ、バルドが齧れるんだから、そのままくれよ。それにまだあるぞ」 「おっ……だっ……そ……」 「なんだよ、ドキドキしたか?こんな往来でのキスは」 「破廉恥だ!」 「どこがだよ。俺はバルドが好きだってアピールしただけだ」 「蓮…………」  バルドは蓮の言葉にモジモジとしながらはにかんだ。 「やだよ、お客さん。見せつけてくれるねぇ。ラブラブじゃないか」 「ラブラブっ!?そ……そう見えますか?」 「そうじゃなかったら、今のは人工呼吸かい?羨ましいね、新婚旅行か~」 「な、なんでわかるんですか?」 「なんとなくだよ。ところで、ダブダブはどうするんだい?新婚旅行のキスの記念に買っていくかい?」  商売の上手いおばちゃんはダブダブの箱を見せ、安くするよと笑った。  確かに面白い果実ではあるが、今は店の買い出しでは無いから、大量に勧められても消費が出来ない。旅行が終わるまで持ちそうにも無いからと、蓮が断ろうとしたら、バルドが声を上げた。 「買う!買います!新婚旅行のキスの記念だ!」 「いや、待て待て。キスなら何回もしてきただろ!のせられんな!」 「ははっ、まいど~」  バルドは上機嫌に財布を開けた。 (調子に乗って好きとか言ってやるんじゃなかったな)  蓮は爽やかな香りのする店先から、往来に目を向けて、見えた人影にそっと息を潜めた。

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