4 / 10

第4話 市場で恋人想像してモミモ揉んでたら、恋人が消えていた

 海の魔獣が並ぶ店からは、香ばしい匂いが漂っていた。 「腹減ったな、蓮。何か食うか?」 「ん?あ、あぁそうだな。あーでもそろそろ移動しないか?宿のチェックインもあるし」 「まだ昼だぞ?」 「そうなんだけど……な……」  蓮はキョロキョロと視線を彷徨わせながら、バルドについていく。 「具合でも悪いのか?」 「いや。別に……」  心配そうに蓮を見るバルドに、流石に悪いと蓮は顔を上げて笑った。 「大丈夫だ。何か食おう。腹減ったな」  蓮の笑顔に、バルドは不安を向けつつも笑顔を返す。 「兄ちゃん達!新婚旅行だろ!うちの海鮮食べてけよ。美味いぞ!」  そんな二人のすぐ横から、威勢の良い声が割り込んできた。  店先で海鮮を焼いている爺さんが、ニタニタと笑っている。 「なんで、新婚旅行って……」 「ダブダブ持ってるからな。あの果実屋のおばちゃんは新婚旅行客に記念だって言ってダブダブを売りつけるんだ。なんの記念なんだか」 「き、記念だ!ちゃんと記念として買ったんだ満足してる!」  バルドはダブダブの袋を肩からずり落としながら、爺さんに必死に言う。  だいぶ言い訳っぽい。 「あぁ、悪かったよ。旅の思い出はなんでも記念だな。じゃあ、うちの海鮮も記念だ。食べてみろ」  ニッと笑った爺さんは、焼きたてだと海鮮の串を一つ渡してきた。  バルドが受け取ろうとして、伸ばした手を蓮が止める。 「いや、良いよ。今は別のが食べたい」 「え?」 「そうか?これはうちの秘伝で作ってるから、そこらじゃ食えないんだけどな」 「秘伝?だったら……」  秘伝と聞いて、耳をピクリと反応させたバルドはもう一度手を伸ばそうとする。 「やめとけ」 「なんでだ」  蓮の声に止められて、バルドは焦れた。  蓮は言いにくそうに店に近づく。 「ここの店は腐った臭いがするだろ」 「ん?まぁ、確かに。でもこれは発酵臭じゃないか?」 「え?」  バルドの言葉に、蓮の目が丸くなった。  確かに店先にはあまり良い臭いとは言い切れない香りが立ち込めている。  しかし、バルドは問題ないと笑っていた。 「すごいな兄ちゃん。やっぱり獣人の鼻は誤魔化せねぇな。うちはモミモを使ってんだ!」 「なんだ、モミモって」  どことなく卑猥そうな名前が出てきて、蓮はフンポダケやフニャポンを思い出す。  爺さんは、店の奥から樽を持ってきた。 「これだよ。モミモ漬けにした海鮮は栄養満点になるんだ」 「くっさ!!」  爺さんが開けた樽の中には、モミモと呼ばれる茶色い土みたいなものが入っていて、異様な臭いを漂わせている。  そのモミモの中には海鮮のグニグニしたものが、少し動いているようにも見えた。 (海の魔獣って、切られても動くやついんの?いや、それより臭い……)  鼻をつまむ蓮に、バルドが笑う。 「プンランだって、魔乳脂だって臭いだろ。でも全部美味い。モミモ、面白いですね。やっぱり食べてみたい。ひとつください」 (いや、臭いもんは臭い。確かにバルドが料理すれば美味かったけどな)  バルドが串焼きを食べる姿を見ながら、蓮は少しづつ距離を取り、店を出た。  通りに出れば、ようやく大きく息を吸えた。  はぁ~と息を吐けば、地面に、大きな影が映る。  まずいと思った瞬間に、蓮は走り出していた。  モミモ漬けの海鮮串焼きを食べ、バルドは感動していた。  旨みがギュッと詰まっていて、ほのかに鼻に抜ける香りがまた美味い。  聞けばモミモに漬ける以外、味はつけていないという。 「ただの茶色い土に見えるんだけどな……」 「ははっ。これはな、長年かけて作られた愛の床なんだよ。このモミモ床とはもう50年の付き合いだ。毎日毎日丁寧に揉んでやれば旨みが増すんだ。モミモを大事に可愛がってやる人が、美味いモミモ漬けを食える。カミさんみたいなもんだ!」  ガハハと笑いながら、爺さんはモミモ床を掻き回し始めた。  その手は優しく、目は慈愛に満ちている。  本当にモミモを大事に思っているのだと、バルドは感じた。 「あの、俺にもやらせてもらえませんか。これでも一応料理人なんです」 「そうだったか。よし、だったら、こっちの樽のをやってみろ。うまくできるようなら熟成したモミモも譲ってやる」  バルドは、まだ新しい色をしている樽のモミモに手を入れた。  ズブズブと埋まっていく手の感触に、蓮の……。  バルドはブンブンと首を振った。 「おまえさん、何を想像した?」 「へぇ!?何って?!」 「ははっ、良いんだ。愛する人だと思って揉んでやれ。一番愛情が込められるからな」 「愛……する……人……」  バルドは温泉旅館で喘いでいた蓮の姿を思い出した。  バルドの腰の上で体を揺さぶられながら、快感に溶けていく蓮。  触れば触るほど、手に馴染む蓮の肌。 「はぁ……舐めたい……」 「え?」 「あっ、いや、なんでも……」 「はははっ!モミモだけ舐めても美味くはないぞ。でも、良いな。おまえさんならこの株分けしたモミモ譲ってやる。大事に育ててやってくれ」 「本当ですかっ?!」 「あぁ、モミモは海鮮だけじゃない。肉でも野菜でもなんでも美味くしてくれるからな。色々試して美味いもの作ってみろ!」 「ありがとうございます!!」  バルドは、新しい樽を抱えて店を出てきた。 「野菜だったら、クロップにも分けてやるか」  親友の名前を思い出すが、それよりも、モミモの感触が残る手を握る。  早く蓮に触れたいと辺りを見回した。  しかし、その姿は見つけられない。 「腹減りすぎてどこかで食ってるのか?」  近くの屋台を見回しながら、歩き始めると、カシャンと足に何かが当たった。 「蓮の、サングラス………………蓮、どこ行った!!」  バルドは走り出し、蓮の気配を探す。

ともだちにシェアしよう!