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悪化

休日はあっという間に終わった。 書店へ行き、偶然出会った女性の対応をし、帰宅した頃にはすっかり日が暮れていた。 気付けばまた仕事だ。 精神科医の一週間は案外早い。 外来をこなし、カルテを書き、気付けば次の受診日がやってくる。 そして今日。 ――望月芹の診察日だった。 診察室の扉が開く。 「こんにちは」 「こんにちは」 いつものやり取り。 けれど、椅子に腰を下ろした芹を見た瞬間、翠は小さく眉をひそめた。 顔色が悪い。 目の下の隈も濃くなっている。 髪こそ整えているが、誤魔化しきれていなかった。 「寝てますか」 「それ挨拶ですか」 「質問です」 芹はため息をついた。 「寝てます」 「何時間」 「二時間くらい」 悪化している。 翠はカルテへ目を落とした。 予想はしていたが、予想が当たると安心できるわけではない。 「食事は」 「食べてます」 「なにを」 「カフェオレ」 「……それは飲み物です」 芹は目を逸らした。 小さく息を吐くと、翠はペンを置いた。 「望月さん」 「はい」 「本当に身体壊しますよ」 診察室が静かになる。 「仕事以外になにかありましたか」 芹はその言葉に、分かりやすく反応する。 「なにもありません」 「何度も言ってますが、ここは精神科です。僕の前では自分に正直にお願いします」 芹は黙ったまま視線を逸らした。 図星なのだろう。 けれど話すつもりはないみたいだった。 翠は焦らず言葉を待つ。 こういう沈黙も診察の一部だった。 やがて芹が小さく息を吐く。 「先生」 「はい」 「仮になにかあったとして」 その言葉に翠は顔をあげた。 「それを話したところで、よくなるんですか」 どこか疲れた声だった。 翠は少し考えてから答える。 「すぐには難しいかもしれません」 「ほら」 「けど、よくするために精神科医がいます」 芹は納得していない顔をした。 それでも反応はしなかった。 ただ、見上げるように天井を見上げて、 「じゃあさ」 ぽつりと呟く。 「その言葉、ちゃんと責任とってくださいね」 「ええ、もちろん」 「〝先生が〟俺のことをよくしてください」 あまりにも自然な口調だった。 まるであたりまえのことを言うように。 翠は一瞬だけ言葉に詰まる。 診察の空気が少し変わった気がした。 けれど当の本人は気にした様子もなく、 「睡眠薬増やしてくれません?」 と続けた。 「規定の量を守らないから減らしたんでしょう」 「効かないんですもん」 「大丈夫です。効いてます」 「説得力ないんですけど」 「あなたに言われたくありません」 芹は小さく肩を竦めた。 反省の色は見当たらない。 それなのに、なんの意味もないような言葉が妙に耳に残った。

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