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これが僕達の仕事

診察室の扉が静かに閉まる。 女性は緊張した様子で椅子へ腰を下ろした。 「改めまして、榊です」 「……よろしくお願いします」 数日前とは違い、呼吸は落ち着いている。 顔色も悪くない。 翠は少し安心した。 「今日はどうされましたか」 女性は膝の上で手を握りしめる。 「この前みたいなのが何度かあって……」 小さな声だった。 翠は急かさず次の言葉を待った。 「症状を自覚し始めたのはいつ頃からですか」 「……半年前くらいです」 本当なら「なぜもっと早く来ないんだ」と言いたいところではあるが〝なぜ?〟とは問わないようにしている。 「どういう時に症状が出やすいですか」 「外出時ですかね。毎員電車とか」 翠はメモを取りながら頷く。 「症状が出る前になにか考えていることはありますか」 「考えてること……?」 女性は少し俯く。 「また出ちゃったらどうしよう、とか……?」 その言葉に翠はペンを止めた。 予想していた答えだった。 一度強い発作を経験すると、その記録そのものが不安になる。 また起きるかもしれない。 逃げられなかったらどうしよう。 そう考えるほど緊張は強くなる。 そしてその緊張は症状を呼び寄せる。 悪循環だった。 「なるほど」 翠は静かに頷く。 「まずはその悪循環を少しずつ断ち切っていきましょう」 女性は不安そうな表情のまま、それでも小さく頷いた。 「先生、これって何なんでしょうか」 不安そうに尋ねられる。 翠はカルテへ視線を落とした。 「半年も続いてるとなると、お話を聞く限りパニック症の可能性が高いと思います」 女性が息を呑む。 「パニック症ですか……」 「突然強い不安や動悸、息苦しさが起きる病気です」 「治りますか」 「はい。治療を続ければ改善される方が多いです。お薬もお出しするので飲んでください。飲み始めは効果がないと思うかもしれませんが、飲み続けることが大切です。それと同時にもうひとつ。発作が万が一、出てしまった時や不安が強い時に飲むお薬を出します。こっちの方はお守りとして、常に持ち歩いていると少しは不安も減るかもしれません」 女性は手元のティッシュを握りしめたまま俯く。 「わかりました……治るならよかった」 その声はどこか安心したようにも聞こえた。 翠は小さく頷いた。 「焦らなくて大丈夫なので、少しずつ一緒にやっていきましょう」 すぐによくなる病気ではないけれど、適切な治療を続ければ改善は十分に望める。 ずっと先の目標より、明日の目標を達成できるように。 これが精神科医の仕事だ。

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