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困った男
この日は、週一回へ変更して二回目の受診日だった。
翠はカルテを確認しながら時計へ視線を向ける。
予約時間が五分過ぎている。
芹が時間に正確な人間というわけではない。
けれど、連絡もなく遅れることはほとんどなかった。
何分待っても待合室へ現れる気配はない。
翠は小さく眉を寄せた。
その時だった。
「先生っ!!!」
看護師が診察室へ顔を覗かせる。
「望月さんですけど……」
「来られそうですか」
「電話したんですが出ません」
翠の手が止まる。
「メッセージは」
「返信なしです」
診察室が静かになる。
嫌な予感がした。
もちろん、ただ寝ているだけかもしれない。
仕事に集中して気付いていないかもしれない。
忘れているだけかもしれない。
それでも最後に会った時の顔色が頭をよぎる。
「わかりました」
そう答えるしかなかった。
外来は続いているし、今すぐ動けれる状態ではない。
翠はカルテを閉じた。
けれど、その後の診察もどこか落ち着かなかった。
最後の診察が終わり、受付にいた看護師へと声をかけた。
「望月さんの緊急連絡先わかります?」
「担当編集者さんです」
すぐに返ってきた答えに頷く。
カルテを開き、登録されている番号を確認した。
数秒迷ってから発信ボタンを押す。
すると、すぐ出た。
『はーい!』
思った以上に大きな声が返ってきて、翠は少しだけ受話器を離した。
「榊です。望月さんの主治医の」
『先生っ!?!?』
編集者の声が一段高くなる。
嫌な予感がした。
「今日、受診予定だったんですが連絡がつかなくて」
その瞬間、電話の向こうで深いため息が聞こえた。
『実はこっちもです』
翠の表情が微かに曇る。
『昨日から電話も出ないし、メッセージも既読つかないし』
「ご自宅には?」
『行きましたよ!でも居留守なのか本当にいないのかわからず……』
編集者の声にも焦りが滲んでいた。
前回のことが頭によぎる。
仕事以外でのなにか。
原因はきっとこれだろう。
「もしかしてですけど仕事以外でなにかあったとか聞いてたりしませんか」
電話の向こうが静かになる。
数秒の沈黙。
やがて編集者が小さく息を吐いた。
『元カノか……?先生!!多分それです!!!』
翠は思わず眉をあげた。
「元恋人ですか」
『別れたの、半年前くらいなんですけど』
編集者は少し言いづらそうに続ける。
『最近また連絡が来たとか?なんとか……?詳しくは聞いてないんですけど』
翠は小さく息を吐いた。
恋愛で負った傷がいちばん厄介だからだ。
放っておくのは危険と判断し、編集者に許可をもらうと白衣のまま飛び出していった。
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