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外出②

書店を出ると、外はさらに冷え込んでいた。 書店へ行っただけなのに、約束の三十分はとうに過ぎていた。 「三十分と言ったはずですが」 「まあまあもう少し」 「帰ります」 そう言うと、頬を膨らませながら、 「もうちょっとだけ」と返ってくる。 楽しそうな姿にまあ少しなら、と結局乗せられる。 もう午後九時前だということもあり、店はほとんど閉まっていた。 「どこもあいてませんが」 「飯!食べに行きましょ!」 その言葉に翠は目を丸くした。 いつもカフェオレしか口にしていない人間からそんな言葉が出るなんて。 「それは行くべきです」 それ以外の選択肢は思い浮かばなかった。 路地裏を少し抜けたところに見えてくる居酒屋。 静かな街にぽつんと暖かい光が二人を迎える。 店へ入ると想像してたよりもかなりの客で賑わっている。 「人が多いのは平気ですか」 「平気じゃないといえば個室の店にでも連れてってくれます?」 「行きません」 「冷たいなあ」なんて言いながらも、芹は店内を見回した。 帰る様子がないのを確認して、それだけで少し安心する。 「二名様ですか?」 店員に案内され、窓際の席へ腰をおろした。 メニューを開いた芹は数秒固まった。 「先生」 「はい」 「居酒屋に来てお酒飲めないんですか」 「絶対だめですね」 そう言うと、不貞腐れたようにこちらに視線を送ってくる。 「じゃあ、とりあえずオレンジジュースでいいですか」 「オレンジジュース飲めません」 「オレンジジュース飲めない人なんてこの世にいるんですか」 「ここにいます」 「めんどくさい人ですね」 「あなたが言いますか」 芹は小さく笑いながらメニューをめくる。 鼻歌を歌いながら、あきらかに上機嫌だった。 「じゃあなに飲むんですか」 「黒烏龍茶です」 「つまらない」 「健康的なんです」 「精神科医ってみんなそんな感じなんですか」 「少なくとも僕はそうです」 そう返すと「へえ」と興味がないのか、あるのかわからないような返事をする。 芹は頬杖をついたまま翠を見つめている。 「なんですか」 「俺、今すごい楽しいですよ」 「それはよかった」 本心だった。 ここ最近の彼を見ているからこそ、なおさらそう思う。 眠ることも、食事をすることも、生きていたくないと言っていたことも。 一瞬でも〝楽しい〟と思える瞬間があるだけで今は十分だった。 「先生」 「はい」 「ちゃんと生きてたら、また連れてきてくれます?」 芹は冗談みたいに笑った。 けれど、その言葉だけは冗談には聞こえなかった。 「いつでも」 そう答えると、満足そうに笑っていた。

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