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外出③
ほどなくして料理が運ばれてくる。
――焼き鳥、だし巻き玉子、唐揚げ。
テーブルの上が少しずつ賑やかになっている。
「頼みすぎでは」
「二人分ですよ」
そう言いながら、芹は焼き鳥へ手を伸ばした。
そして意外なことにちゃんと食べる。
思っていたより箸が進んでいた。
「食べられるじゃないですか」
「失礼ですね」
「普段カフェオレが食事じゃないですか」
「それは原稿期間限定ですよ」
限定という割には受診の日は必ずカフェオレだと答える。
けれど、今は何も言わなかった。
目の前の料理が減っていく。
それだけで十分だった。
「先生」
「はい」
「そんなに見られると食べにくいです」
どうや視線に気付かれていた。
初めて見る姿につい、見入ってしまった。
翠は何事も無かったように黒烏龍茶へ口をつけた。
「そういえば先生」
「はい」
芹は箸を置いた。
「連絡先交換しません?」
危うく黒烏龍茶を吹き出しそうになる。
「しません」
「なんで」
「患者と医者だからです」
芹は不満そうに眉を下げている。
「また今回みたいなことあっても知りませんよ」
その言葉に翠は一瞬、黙った。
「それは脅しですか」
「はい、脅しです」
今回に限って言えば、連絡が取れなかったことが一番厄介だった。
そもそも家へ行くことになったのもそのせいだ。
患者と個人の連絡先を交換するのは本来タブーとされている。
だが、放ってしまったら本当に居なくなってしまうのではないかという不安に駆られた。
「本当に緊急時だけですよ」
深いため息と共にそう告げる。
芹の顔がわかりやすく明るくなった。
ポケットからスマホを取り出すとQRコードを提示した。
芹はQRコードを読み込むと、すぐさまスタンプを送ってくる。
柄にもなく、ハムスターのスタンプを。
「……なぜハムスター」
「俺に似てるからです」
「はい」
飽きたれように返事をすると、芹は満足そうに笑っている。
翠は新しく追加された画面を見つめる。
LINEのアイコンはハムスターの写真。
〝俺に似てる〟というよりただのハムスター好きなんじゃないかと思う。
そんなことを考えながら翠はテーブルにそっとスマホを伏せた。
「そろそろ帰りませんか。送るので」
そう言うと、芹は目を丸くした。
「え?じゃあ帰ります」
単純なのか、なんなのか。
振り回されているような気がして翠は小さくため息をつく。
レジへ向かう途中、ひょいと伝票を取られた。
「俺の奢りで」
それに軽くお礼を言って、店を出る。
外を出ると痛いくらいの冷たい夜風が頬を撫でた。
隣を歩く芹にふと目を向ける。
そこには楽しそうに足を進める姿が翠の目に鮮明に焼けつけられた。
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