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集中できない

それから数日が過ぎた。 翠は診察室でカルテを確認していた。 午前の診察も残りわずか。 画面へ視線を落とすと、望月芹の名前が表示されていた。 受診時間まであと十分。 あの日以降、大きな変化はない。 ひとつ変わったといえば、連絡先を交換した日から連絡が途絶えないということだった。 <おはようございます> <今日は雨ですね> <コンビニでハムスターいた気がします> どうでもいい内容ばかりだった。 「先生〜望月さん入られます」 「どうぞ」 看護師の声と同時にゆっくりと扉が開く。 「こんにちは」 「こんにちは」 ここまではいつも通りの挨拶だった。 けれど椅子に座るなり、不満そうにこちらを見た。 心当たりはあった。 というより、それしかなかった。 翠は見なかったことにしてカルテを開いた。 「先生」 「はい」 「既読無視やめてもらっていいですか」 どうやら、なかったことにはできないみたいだった。 〝緊急時の時だけ〟という約束はどこへいったのか。 そう思いながら再びカルテへと視線を向けた。 最近の体調や、睡眠時間、食事。 いつもの診察をする間もどこか不満そうな顔をずっと浮かべていた。 「診察なんてどうでもいいんですけど」 とうとうそんなことまで言い出した。 翠はため息をつくとペンを置いた。 「患者さんが言ってはいけない台詞ですよ」 「じゃあ返してください。先生のせいで病みそうです」 「元々患者でしょう」 そう言うと、芹は不満そうに口を尖らせる。 その様子に内心、少しだけ安堵する。 家へ迎えに行った日の時と比べれば、今のやり取りはずっと平和だった。 「そんな顔できるなら大丈夫そうですね」 「どんな顔ですか」 「面倒な顔です」 「それでも本当に医者ですか?」 不満そうに零していたが、その表情に先日までの陰りはない。 睡眠も食事もまだ安心できる状態ではないけれど、こうして文句が言えるなら今は十分だった。 電子カルテに現在の状態を打ち込んでいく。 その横で視線を感じた。 「やりにくいんですが」 「困った顔もいいですね」 「……他の先生に回しますよ」 その瞬間、芹の表現が固まる。 「それはやだ」と予想以上の即答だった。 翠は思わず手を止める。 そのまま芹の方へ視線を向けると、頬杖をつきながら面白がるようにこちらをじっと見ていた。 その顔になぜか胸の奥が僅かにざわついた。 医者としての安心というより、それとはまた少し違う気がした。 「望月さん」 「はい」 「診察中です」 そう言うと、姿勢を少し正して「はーい」と軽く返事をする。 今日の診察はやけに集中できなかった。

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