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面倒な患者

翌朝。 目覚ましより少し早く目が覚めた。 カーテンの隙間から差し込む朝日を見ながら、翠はゆっくりと身体を起こす。 昨夜のメッセージを思い出したのは、スマホを手に取った時だった。 通知は増えていない。 最後に表示されているのは自分が送ったメッセージだった。 「何を気にしてるんだ」 ぽつりと呟く。 気にしているわけではないくせに、スマホを取ると無意識に開くのは芹のトークだった。 いつもなら何かしら送られてくるはずだった。 ――おはようございます。 ――今日も仕事ですか。 そんな他愛もないメッセージ。 静かな画面を見つめている自分に気付き、翠は眉を寄せた。 送られてこない方がむしろいいはずだった。 手に取ったスマホを静かに伏せた、その時だった。 通知音が鳴る。 表示されている名前は望月芹だ。 その瞬間、少しホッとした自分がいた。 <おはようございます> <先生、今日休みなの知ってます> <元カノ断ったんで会ってくれます?> 翠は画面を見つめたまま固まる。 なぜ休みを知っているのか。 なぜ元恋人を断ったという報告をしてくるのか。 そしてなぜ会う前提で話が進んでいるのか。 ツッコミたいことは山ほどあった。 けれど、元カノを断ったというその一文だけが妙に頭に残る。 <そうですか> たった一言そう返した。 するといつものようにすぐ既読になる。 数秒もしない内に届いたのは、 <主治医として褒めてくれないんですか> という、メッセージだった。 翠は思わずため息をつく。 元恋人の誘いを断ったこと自体は、間違いなくいい判断だとは思う。 少なくとも今の芹にとっては。 けれど、褒めてほしいから報告したのかと思うと思わず口元が緩んだ。 主治医として言うべき言葉はもう決まっている。 <よく出来ました> 打ち込んでから数秒見つめる。 だが、消した。 患者に対して送るような言葉ではない。 無意識に打ち込んでしまっていた自分に、思わず深いため息が出た。 <いい判断だと思います> 打ち直して、そう送信した。 既読はすぐにつく。 <なら、ご褒美にご飯どうですか> <それとこれでは、話が違うのでは> そう返すが、これで終わる訳もなくメッセージはどんどんと続く。 <一緒ですよ> <とりあえずご飯行きましょ> なぜそもそも自分とそこまでして、食事へ行きたがるのか理解が出来なかった。 それでもその誘いがなんだが自分を信頼してくれているような気がして、構ってしまう。 <先生といると気分がいいんで> その一文にふと指が止まった。 冗談のような軽い文章なはずなのに、その中には本音も混じっているような気がした。 翠はしばらく画面を見つめる。 返信するべきか迷った末、小さくため息をついた。 <少しなら> どうやら面倒な患者に捕まってしまったみたいだった。

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