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ショッピングモール

休日の駅前は思ったより人が多かった。 翠は腕時計へ視線を落とす。 待ち合わせ時間の五分前。 本来なら来るつもりなんてなかったはずなのに、気付けば家を出ていた。 理由はわからない。 ただ、断り続けるのも面倒だったということにした。 人混みの向こうへ視線を向ける。 「先生」 聞き慣れた声が聞こえた。 顔をあげると、こちらへ手を振る芹の姿が見えた。 診察室で見るときと何も変わらないはずなのに、今日はなぜか別人のように見えた。 いつもより表情も明るい気がする。 「ギリセーフ」 「待ち合わせの五分前に来るのは常識かと」 「先生が早すぎるんですよ」 悪びれもせずにそう言って笑う。 その態度に、翠は思わずため息をついた。 わりかしきっちりしている自分と自由人の芹とはとことん合わないと思うのに、不思議と嫌な気分にはならなかった。 むしろ、こうして振り回されている時間にも慣れてしまっているのかもしれない。 それが良いことなのかはさておき、翠は隣を歩く芹の方へ視線を向けた。 相変わらず予定すら決まっていないというのに、人混みの向こうを眺めながら楽しそうにしていた。 「どこに向かってますか」 「予定は未定?」 「ほんと計画性ないですね」 呆れたように言うと芹は「失礼だなあ」と笑う。 けれど否定しないところを見ると、自覚はしているんだなと思う。 「じゃあ、ショッピングモールへ行きましょう!」 思いついたみたいな言葉に、翠は思わず目を見開いた。 「嫌です」 「え、なんで?」 「こんな日にショッピングモールなんて行ったら人混みで僕がやられます」 「先生も人混み嫌いなんじゃん。やられる時は一緒ですよ」 意味のわからない言葉に結局流されてしまい、気付けばショッピングモールへ来ていた。 休日ということもあり、館内は想像以上にかなり混雑している。 芹の一方的な話を聞かされながら、館内を歩いているとなぜか周りが騒ついているのに気付く。 「あの」 不意に声がかかる。 振り返ると高校生くらいの女の子が二人。 どこか緊張した様子で芹を見ていた。 「もしかして望月先生ですか……?」 翠は一瞬だけ芹を見る。 しまったと思った時にはもう遅かった。 そういえばこの男は有名人だということをすっかり忘れてしまっていた。 「別人です」と返そうと思った瞬間だった。 「あーバレた?」 本人はあっさり認めていた。 女子たちの顔が一気に明るくなっていく。 「新刊読みました!!!」 「ファンです!!!」 「実物もイケメンやばい」 人集りができるのはあっという間だった。 翠は思わず額に手を当て深いため息をついた。 当の本人は笑顔で対応している。 けれど、その表情の奥に少しだけ疲れが見えた気がした。

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