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ショッピングモール②
気付けば人集りの中心に芹はいた。
ひとりひとり欠かさず対応していく姿を見て翠は思わずため息をついた。
どう考えても目立ちすぎだ。
本人は慣れているのか落ち着いてはいるけれど、周囲の熱量はどんどん上がっていく。
そろそろ耐えられなくなってくる頃だろうか。
翠は腕時計へ視線を落とす。
ファン対応だけで約二十分。
「望月さん」
人混みの中から声を掛ける。
芹がこちらを見た瞬間に、人の隙間を縫うようにして中へ入ると、その腕を掴んだ。
「先生?」
驚いた声が聞こえたが構わない。
「失礼します」
周囲へ一言だけ告げると、そのまま人混みの外へ引っ張り出した。
背後からは残念そうな声が聞こえてくる。
けれど、足は止めなかった。
ショッピングモールの通路を抜け、人の少ない場所まで来てようやく手を離した。
「先生」
芹は少し息を切らしながら、こちらを見上げている。
「なんですか」
「もしかして俺のこと助けてくれました?」
その言葉に、翠は小さく眉を寄せた。
人が増え続けていたから連れ出した。
ただそれだけだ。
「また面倒なこと巻き込まれたくないので」
そう言うと、芹は楽しそうに笑った。
人通りの少ない路地を並んで歩いていると、まるでさっきまでの騒がしさが嘘みたいだった。
ふと隣を見れば満足そうな表情を浮かべている芹がうつった。
「今の危なかったなあ」
独り言みたいに落ちた言葉に、翠は視線だけを向けた。
「なにがですか」
「先生のこと好きになりかけたなあって」
あまりにも軽い口調だった。
冗談なのか、本気なのかわからない。
だからこそ翠は返事をしなかった。
代わりに、小さくため息をつく。
その横で芹は楽しそうに笑っていた。
「ちょろい」
聞こえないくらいの声でぽつりと零したつもりだった。
けれど、聞こえていたみたいで芹はすぐに反応した。
「え?」
「少し助けられたくらいですきになるんですね」
そう言うと、芹は数秒きょとんとしたあと吹き出した。
「先生」
「なんですか」
「やっぱ助けてくれたんですね」
しまったと思った時にはもう遅かった。
どうやら余計ことを言ったらしい。
隣を見ると、芹は満足そうな顔をしている。
人混みから連れ出されたことがそんなに嬉しかったんだろうか。
けれど、先程の困ったような笑顔より明らかに顔が明るくなったのがわかった。
こうなることは予想できたはずなのに、わざわざショッピングモールを選ぶ理由は理解できなかったけれど、芹にとって少しでも心が休まるならたまにはこういうのもいいのかもしれないと、翠は思った。
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