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第4話
「はい! そうなんです、ちょうどアパートが住めなくなったので、今日から仕事できますっ!」
携帯電話を握り締めながら、僕は誠心誠意を見せるために人目があったけれど深く頭を下げる。
「僕っ! 下に兄弟も多いから家事は昔からやっていてっ料理もとく 「ああ、いいよそういうの」
僕の意気込みはあっさりと切り伏せられてしまって、電話の向こうから温度差のあるひやりとした言葉が返された。
「君、性別は? バース性の方」
ひどくつっけんどんでデリカシーに欠ける質問だったせいか、一瞬言葉に詰まる。
バース性の差別をなくそうと世界が動き出している今、それを問うことも一部の職業を除いてそれを理由に募集枠を狭めることもしてはいけない となってはいるのだが……
会社やアパートがそうだったように、実現されていないのが実情だ。
『誰でも歓迎。でもオメガは不可』
誰でもの中にすら入れない自分は、本当に人間なのかと思う時がある。
「いろいろ厳しくなってて書かなかったが 」
「あ ぇ、と。僕……」
人間ですらない存在。
就職することも家を見つけることも難しい。
とっさに、そんな性を名乗ることが嫌になった。
首元に手をやって、思わず項を守るためのネックガードをはぎ取る。
「ベータ……ベータですっ!」
「なら構わない」
僕の言葉に面倒そうに答えて、電話の向こうの男は家に来るようにと告げて電話を切ってしまった。
咄嗟に出た嘘はブツンという音に断ち切られて、やっぱり違うんです! とは言い出せないままだ。
衝動のままに間違った情報を相手に与えてしまった衝撃は酷く胸を弾ませる。
心臓の底が抜けてそこから血がすべて流れ出してしまったんじゃないかってほど、動悸がして呼吸が途切れ途切れになった。
血が引いて指先が凍えたように冷たく動かしにくい。
人様に嘘を吐く なんて、小さな頃から絶対にしちゃいけないことだと言い聞かされてきたことだったのに、とんでもないことをしてしまった……
「 っ、でも、 」
そうしないと路頭に迷うだけだ と自分自身を奮い立たせて、力が抜けそうになる足を一歩踏み出した。
まだ新しく大きな家に怯みながらチャイムに手を伸ばす。
一般家庭にしては大きく立派なクリーム色の家は、そのおしゃれさの割にすべてがぞんざいだった。
門扉に小さな花壇があるものの花の一輪も咲いておらず、明らかに雑草とわかる草が伸び放題だ。
繊細にツタ模様が施された白い門なのに、その内側には華やかな物が一つもない。むしろ荒涼としたと言ってもいいほど、飾り気のない庭が広がっている。
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