8 / 11
第8話
「わかりました。住み込みでとのことなのですが、どこの部屋を使えばよろしいでしょうか?」
「ああ、そうだったっけ? じゃあそこの奥の和室を使って」
「あと、ルカくんに食べさせてはいけないものは……」
「えぇ? なんでも食べるよ うん」
彼の言葉尻が少し濁すようで……僕はなんだかモヤモヤとしたものを感じた。
「アレルギーはないですか?」
「トーマの子供にアレルギーがあるわけないでしょ!」
いきなり怒鳴りつけられて、僕は小さく肩をすくめて腕の中のルカをギュッと抱きしめる。
少し当たりがきついな とは感じてはいたけれど、初対面で怒鳴りつけられるほどとは思っていなくって、連続で人の悪意に晒され続けたせいか心が固く黒く縮こまってしまった気分だ。
「あ、それから僕のことはリンって呼んで」
「 リ、リンさんですね。承知いたしました」
「部屋とかは勝手に見て回って。トーマの部屋の掃除は許可を取ってからね。必要最低限以外、トーマに話しかけないでしょ? いい?」
「はい」
「まぁ、使えなかったら他の人に代わってもらうだけだし、あはは」
説明を一通り終えて、リンはもう僕に興味を失ったようだ。
じゃあ後は適当に なんて言って、トーマと同じように二階に行ってしまった。
リンがいなくなった途端に静まり返った空間はどこか夢の中に迷い込んだような奇妙さがあって……ぼんやりとしていると、腕の中がゴソゴソと奇妙な動きを始めた。
「えっ ちょ、な 」
何⁉︎ って大声を出しそうなったけれど、リンに大きな声を出されて身をすくめていた姿を思い出して、極力顔に驚きを出さないようにして、僕の胸をさわさわと撫でているルカを見る。
小さな子供なのだから当たり前なんだけど、ルカの胸へ触れてくる手つきはまったくいやらしいものじゃなかった。
「たーい、たーい……」
「たーい?」
いたーい?
もしかして、さっき僕が怒鳴られて嫌な気持ちになってしまったことを感じ取ったんだろうか?
なでなで と優しく僕の胸を撫でてくれるルカの表情は、自分の方が泣きそうだ。
「ありがとう。もう痛くないよ」
「たーい……ない?」
「うん、ルカくんがよしよししてくれたからね。ありがとう」
にっこり笑って頭を撫でてあげると、青いオパール色の瞳が一瞬大きく揺れた。
パチパチと弾けるような光が瞳の中に踊る様子が美しすぎて、瞳を覗き込んだままうっとりとしてしまう。
「僕とトーマは出かけてくるから! ルカのことと家のこと、任せたからね!」
突然耳を刺した怒鳴り声にはっと顔をあげると、薄地のコートを腕にかけた二人が階段から降りてくるところだ、二人とも先ほどまでのオシャレな服とは違いスーツを着ていて、足取りは慌ただしい。
ともだちにシェアしよう!

