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第29話
僕はすごすごとテーブルの上のルカの分の食事をローテーブルに移して、「デザートにバナナのアイスがあります」って伝えてから二階の部屋にいるルカを呼びにいく。
ルカは……自分だけテーブルが違うのを、どう思うかな? それをルカに告げなきゃって思うだけで、憂鬱な気分になってくる。
「ルカくん、ご飯にしよっか」
早めにお風呂にも入ってご機嫌で遊んでいたルカは僕がドアを開けるとパッと駆け寄って、嬉しそうに「 っはん!」って答えた。
「ご飯」
「ごぁ……ん?」
「うん、上手に言えました! それから、お父様達が帰ってこられているので、『お帰りなさい』って言えるかな?」
そう言うとルカは少し不思議そうな顔をしてから、「おぁえ なしゃい」とはっきりと言う。
「すごい! ルカくんすごいよ!」
パチパチと手を叩いて、頭を撫でて褒めるとルカは頬を真っ赤にしながらにっこりと笑って、ちょっと自慢げに顔を上げてみせる。
階下に降りると二人はもう食事を始めていて、サクサクとガーリックブレッドを食べるいい音が響いていた。
楽しい会話をしていると言うよりは、何だか難しそうな仕事の話をしているようで……でも、家に帰ってきて息子と顔を合わせるんだから、せめてこっちを見て欲しい。
「さ、言ってみようか」
リビングに入ったところでルカを促すと、僕に向けてコクンと元気よく頷いてくれる。
「おぁえりっなしゃっいっ!」
さっきよりももっともっとはっきりとした言葉だ! 僕は嬉しくなって今すぐルカをグルングルンに撫で回して褒めてあげたくて仕方がなくて……
「ああ、うん」
返されたのはリンの一言だけだった。
いや、一言だってあってよかった。
トーマはルカを見ようともせず、難しそうな話を淀ませることもしないまま話し続けて、結局何も返事をしないままで終わってしまった。
「…………」
最初は返事を返してもらえるかもと期待して瞳を輝かせていたルカの表情が曖昧になって、自分の挨拶に父親が返事を返さないことを悟りきると、キョロキョロと辺りを見回してローテーブルの方へとゆっくりと歩いていく。
「ルカくん……」
思わず握りしめていた拳を振り上げずに済んで、幸いだと思うのか残念だと思うのかわからなくて……
何も言わずにソファーに座るルカの隣に腰を下ろして、膝の上に置かれた小さな手をそっと、できるだけ柔らかく包み込んだ。
「ぃ た、だき、ましゅ」
途切れ途切れだったけれどルカはそう言って、いなせない感情に振り回されている僕をオパールの瞳で見つめる。
「たーい、たーい」
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