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第30話
そっと手を撫でながら繰り返される「たーい」は、痛いの痛いの飛んでけってことなんだろう。
僕が今感じている心の痛みにどっかいけって言ってくれる優しさに、僕の心は宥められて静かになった。
「 オメガの ――――だから、そういった―― 」
「 研究所では、もうこれ以上は……――――」
「 今、先生が開発している抑制剤を使えば……」
二人の会話が時折耳に入るけれど、Ωに関することを話しているんだってことぐらいしかわからない。
他人に聞かれてもいい話ですら僕には何もわからないような内容なんだから、この二人は一体何をしている人なんだろうか? 研究所って言っているのだから、研究職なのかなってあたりはつけられるけど。
「ちぃねぇ」
ルカの言葉にハッとする。
クレープに巻いた生ハムのビーンズサラダがお気に召したようで、転がり出る豆を追いかけながらまるでリスのようにほっぺたを膨らませていた。
「美味しい?」
「んっ」
小麦粉のクレープじゃなくてライスペーパーにしたのがよかったのかもしれない。ちょっと手にひっついているようだったけれど、ルカはライスペーパーのもちもちとした感触が気に入ったようで、よく噛みながら食べてくれている。
「食べてくれてありがとう」
頬についたライスペーパーのかけらを取りながら言うと、ルカは僕の「ありがとう」に驚いたような顔をして……
「ちいの、ちゅき?」
ものすごい勢いで言葉が変わってきているとはいえ、まだ何を言っているのかすべての言葉を理解するのは難しい。
自分の中で何パターンも言葉の意味を立てて、それを組み替えてルカが何を言いたいのか推測してみるけれど、当たってるかどうかはわからない。とりあえず会話が途切れてしまうと気まずいから、
「美味しいのは好きだよ」
って答えた。でもこれはルカが欲しかった返事じゃなかったらしく、ちょっと眉を八の字にしてから「ちいの、あっとー、ちゅき?」と少しだけ言葉を増やして聞き返してくれる。
「おい……しくて? ありがとうが好き?」
そのまま訳してもうまく文章になってなくて、僕はむむ……と頭をフル回転させた。
これ以上ルカをがっかりさせたくなんてない!
う……う……と唸り出しそうな僕の気配を察知してか、ルカは小さな唇をくっと引き結んでからぶんぶんと首を振り始める。
「あ、えっと、えっと……」
「食事をしてありがとうと言われるのは好きかと、聞いている」
肩越しに冷ややかな目がこちらを見ていた。
僕のって言うよりも、ルカのことに一才興味を示さなかったのに突然どうしたんだろうって驚きと、目の前のルカが嬉しそうに笑う嬉しさに頭の中が混乱してしまう。
でもルカの、どうしてそんなに光っているのか不思議な瞳を見つめていると幸せな気分になって……問いかけられた言葉が胸のうちでぐるぐると渦を巻いた。
「好き! 大好きだよ!」
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