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第36話
勢いよく言うと、やっとトーマはコクリと頷いて背を向けた。
最後までこちらを睨むようにして出ていくリンに居心地の悪い思いをしたけれど、仕事をしているだけなんだからと自分を奮い立たせる。
「おちゃかなー?」
「うん、今夜はお魚さん食べようね」
そろりと尋ねてくるルカに返事をするとちょっと真顔になるから、もしかしたらルカは魚が嫌いなのか……もしくは嫌いというよりも馴染みがないだけかも知れないと、リビングを埋めていたゴミの内容を思い出した。
僕の手をしっかりと握り返してくる小さな手の可愛さに思わず顔がにやけそうになる。
お出かけする時はしっかり手を握るお約束だよ! って言っておいたからか、ルカは僕の手をしっかり握って離さなかった。
「あら、ルカくん」
買い物帰りにそう声をかけてくれたのはいつぞやのおばさま達だ。
挨拶をする僕達を見た後、手元の買い物袋に視線が動いていたようだったけれど、そこは気づかないふりをした。
「こんにちは!」
できるだけ明るく返事をしてにっこりと笑顔を見せる。
以前と同じ二人組だし、時間帯も同じだからいつもこの時間に連れ立って買い物に出掛けているのかもしれない。
「今日もお買い物なのね?」
「はい!」
「そこのスーパー、いいお魚あった?」
「あそこはイマイチでしょ?」
おばさま達の言葉は的を射ていて、近くのショッピングモールで販売している魚はもう少しいいものはないのかと探してしまうような品揃えだった。
でもルカを連れて魚を探して歩き回るなんてできないし、妥協できるところを見つけるしかできなくて……僕だって、選べるならもっと新鮮で肉厚でプリっとした魚がよかった!
「そうなんです、お姉様達はどちらで買われてます?」
「私たちは、魚はあっちの方で買ってるわよ」
サッと指差す方向には何もなくて……
「少し遠いけど、魚はそこがいいってこの辺りじゃ有名なの」
「そうなんですか⁉︎ うぅ……行きたかったなぁ。遠いんですよね?」
やっぱり素材が美味しいとそれだけで美味しい。
プロってわけでもない僕の料理を少しでも美味しくしようと思ったら、いい食材を選ばないと だ。
「 ままの。おできゃけ……んっんっ!」
両手で拳を作って気合いを入れるようにふんふんと動かしている姿を勝手に解釈するなら、ルカはちゃんと歩けるよ! ってところだろうか?
「あら……あなた、ママなんて呼ばせてるの?」
「え?」
一瞬で僕を見るおばさま達の視線が冷たくなったのを感じた。
ポッと出てきた人間が、突然子どもに「ママ」なんて呼ばせているんだからいろんなことを考えてしまうのは当然のことだと思う。
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