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第37話

 ただ、僕自身としては「飯野」が「ままの」と呼ばせて何が悪い! って気持ちなので、怒り返したかったけれど、そんなことをしたら事態はますます泥沼だ。  少なくない人生経験を積んできたからか、こういう時は朗らかに行けばいいってわかる。 「はい! 僕、飯野なので!」  いっさい後ろめたいことなの感じさせないハキハキっとした口調で答えると、おばさま達は少し怯んだようだ。  今がチャンス! 畳み込むなら、今っ! てか、前にも自己紹介したのに、覚えてもらえてなかったって悲しい方が先に立ってしまう。  弟達と違ってキラキラしていない僕は良くも悪くも平凡顔で影が薄い。 「ままのって呼びにくいですよねー!」  さっきのおばさま達の感情には何も気づきませんでしたって顔で明るく言い、財布から免許証を取り出して二人に見せる。  知らない人に見せていいものではなかったけれど、これ以上ルカの前でコソコソとよくない話をされたらたまったもんじゃない! 「この字でままのって読みます、呼びにくいのでもしよかったら都筑で呼んでもらえませんか?」  流石に免許証を持ち出されるとは思っていなかったのか、おばさま達はしどろもどろだ。だって僕には何も後ろめたいことなんてないんだから、別に名前を知られて恥ずかしいことなんてない。 「まぁ、珍しいお名前ね」  そう言うとおばさま達はこほんって咳払いをする。自分達が勘違いしてしまったことに対してバツが悪いんだろう。 「よく言われます」  できるだけ和やかに! 和やかーに笑顔を浮かべて全然気にしてないですって表情を作ると、おばさま達はホッとしたようだ。  さっき僕に向けたような冷ややかな視線が和らいで、少し笑顔を見せてくれる。   「じゃあ都筑くんって呼ばせてもらうわね」 「はい!」 「私たち、いつもこの時間に買い物しているから、タイミングが合えば向こうのお店に連れて行ってあげるわ。三人もいればルカくんも行きやすいでしょう」 「わっ! いいんですか⁉︎ ありがとうございます!」  それは助かる!  いざとなれば抱っこしていけばいいんだけど、お店の位置もわからないまま歩き回るわけにもいかないし……  最初よりも打ち解けた雰囲気でさようならを言って別れる。助けてくれることも嬉しかったけれど、何よりルカに話しかけてくれることが一番嬉しい。  ルカは少し人見知りをしているようだったけれど、おばさま達に挨拶はできているし手を振ることもできた。  それが何より嬉しい。  この家でずっと一人で過ごしていたルカに、人との関わりができたって言うのは、大きな出来事だと思った。  デザートのタルトはちょっと早いかなって思ったけど、キウイのタルトにした。  表面に溶かしたゼラチンを塗って……こんがり焼けたアーモンドの香りのするタルト生地とベイリーフで香りづけした甘さ控えめのカスタード、二色のキウイのコントラストがまるで宝石箱やー……なんて感想は定番すぎるかな?

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