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第40話

 叫ぶように尋ねた僕に、トーマは少し……がっかり? したような表情だ。  虐待の話を逸らされて安堵じゃなく落胆したように見えるのって、おかしくない? 「そんなことを言いたかったのか?」  僕の言葉に不満そうにする姿に、本当は違うと言い返したくなった。本当は、ルカにもうちょっと声をかけてあげられないかって言いたかった。  トーマもルカのことを気にかけていないわけじゃないんだと思う。だって、そうじゃないと喃語の延長のようなルカの言葉の意味をしっかりととらえることなんてできないだろうから。  気にかけていないとできないことだ。だから、希望はあると思うんだよね。  でも、言い出してしまった以上、これからのルカの行動範囲や食生活のためにも言質はとっておきたい!   「近所の方に教えていただいたスーパーが少し遠いんです。十分に気をつけますので、許可をいただけないでしょうか?」 「   」  トーマの口はわずかに開いただけで言葉が出ない。  やっぱりダメなのかな? 小さな子供を連れて少し離れた場所に出かけるなんて、そんな危険なことはさせられないって言われるんだろうか?  でも、ルカを独りでこの家に残して出かけるのも心配だった。 「ルカぼっちゃんが迷子になったり、危険な目に遭わないように気をつけますから!」 「……」  トーマはやはり返事をしてくれなくて……僕はこれ以上は言えないと、小さく謝罪して頭を下げる。 「出過ぎました、申し訳ありません」  すごすごと下がって、遅くなった自分のご飯を用意しようとキッチンに向かう僕の背中に、躊躇いがちな声がかけられた。 「……都筑くん」  苗字じゃなくて名前で呼ぶから、毎回どきりとしてしまうので苗字で呼んで欲しいんだけど……  戸惑いながら振り返ると、トーマはやっぱり口を開いたり閉じたりして言葉を探している様子だった。  普段のツーンとして必要なことだけを言って去っていく姿しか知らないから、今日はなんだかポロポロと知らない姿が見れて……見れて……?  んー……胸がくすぐったい?  表現のしにくい感覚に胸を力強く擦っていると、「痒いのか?」と尋ねられた。 「あ……いえ、むずむずして。昼間、ルカぼっちゃんが息をかけてたからかも?」  抱っこした時に と説明していると、やっと開いたトーマの唇が再びピッタリと引き結ばれてしまう。  なんだか天岩戸を思い出したけど、何が原因で口を開いて閉じてってしているのか、さっぱりわからない。でも喋り始めたんなら返事がもらえるかもって期待して、まっすぐにトーマを見上げる。  パチパチと炭酸が弾けそうな青いソーダの瞳。  ルカはお父さん似だから、大きくなったらトーマにそっくりになるんだろうって思ったらおかしくなって、小さな笑みが口の端に浮かんでしまった。 「  っ」  突然、トーマが飛び上がって背を向けた。 「え? え? あの、……旦那さま?」 「  っ」  ビクッと揺れた背中に、僕の呼びかけ方が悪かったんだと気づく。 「ご主人さま」 「  っ、呼び方は……トーマでいい」     

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