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第43話
とっさに口から出た言葉はもう取り返しがつかない。
慌てて口を押さえた僕を見下ろす目から逃げられないまま、「もし、よかったらですけど」とボソボソと付け加える。
甘いものが好きなんだろうなってわかってはいるけれど、それと夜におやつを食べたいかは別の話だ。
「今夜は仕事を持ち帰っている」
「はい!」
「だから 」
トーマは表情らしい表情を作らないまま唇を引き結んでしまう。
あまり喋らず、寡黙な人だと思っていたけれど、持ってきて欲しいって一言くらいは言ってもいいと思うんだけど……
「では、飲み物と一緒にお持ちしますね」
こくんと頷く姿にやれやれと心の中で肩をすくめる。
これが弟たちだったら「きちんと言葉にして、察してくれって思わない!」って叱りつけるところだけど、相手は雇い主だ。
トーマは僕の言葉に安心したように背を向けて二階へと上がっていく。
今度はちゃんと上がり切ったのを見てから、ほっと肩の力を抜いた。
シュワシュワとした水色の瞳も高い背も、αらしい佇まいも……弟で慣れてるはずなのに、トーマが側に立つと緊張して仕方がないから、距離ができるとほっとする。
「友達ってわけじゃないから、親しくする必要はないんだけど。心臓がバクバクしちゃうんだよね」
脈が早くなった名残りなのか少しくすぐったい胸を擦っているとオーブンの音が軽やかに鳴り響く。先ほどよりも香ばしい香りが鼻先をくすぐるから、僕は胸のくすぐったさなんてぽいっと放り出してキッチンに飛び込んだ。
オーブンを開けて出てくるのはチョコ入りのドロップクッキー。
「少し大きめに作るのがポイントだよね」
表面ざっくりと、中は少ししっとりめに出来上がるこれは、弟たちも大好きなお菓子だ。
熱々もいいけれどトーマはさっき食事を終えたばかりだから、粗熱を取るために網の上にクッキーを出してからもう一品を作ることにした。
クッキーだけでも十分かもしれないけど、夜遅くまで仕事をするならもう少しお腹に溜まるものがあってもいい。
「カトルカール作るぞ! 材料は砂糖、卵、バターと小麦粉だけ!」
シンプルっ!
ベーキングパウダーも使わない、バターで膨らませるレシピ!
僕は泡立て器を持った手を突き上げて気合いを入れた。
金属型がないから牛乳パックを代わり使って焼き上げる。
焼きたてよりも少し冷まして味が馴染んだ辺りが美味しいけれど、でもでも焼きたての端っこ! 端っこのちょっと他よりも硬いところの美味しさって格別だよね。
「……つまみ食いじゃない。これは、味見っ」
形を整えるためにそっと切った端っこは、綺麗な狐色でふかふかだ。切り口から立ち上る甘い湯気につい顔を緩ませながら……パクッと口に入れる。
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