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第44話

 味はなんのてらいもないふんわりバターと卵の味。  焼けた香りは幸せの香りだなって思って、ふんふんと鼻歌まで漏れそうになってしまう。  チョコ入りのクッキーとカトルカール、両方に合うのは満場一致で牛乳だろうって言い切りたいけど、ぐっと堪えて紅茶を淹れる。  トレイを持って二階に上がって……奥のトーマの部屋をノックする前に、ルカの部屋をそっと開けて中の様子を伺う。薄暗い部屋の中からルカの健やかな寝息が聞こえて、丸まるようにして眠っていた寝相が少し綻んで、手が伸びているのが見えた。 「帰りに直してあげるからね」  小さく笑いながらトーマの部屋をノックしようとして…… 「わっ」 「そこの机に置いてくれ」  急に開いたドアにびっくりしている僕を置いて、トーマは小さなサイドテーブルを指差しながらデスクへと戻っていく。 「わかりました」    実は、トーマの部屋に入るのはこれが初めてで……ついキョロリと辺りを見渡してしまう。  部屋の二面を使った本棚には上から下まで専門書らしい本がびっしりで、窓の側に天板の広いデスクと申し訳なさげに寝袋が転がっている以外は服と書類が雑多に端っこに寄せられている部屋だった。  ……寝袋?  二度見したけれど、何度見ようと寝袋は寝袋だ。  僕のと同じメーカーのものだってわかった瞬間、嬉しくなったけれど顔に出さないままにトレイをサイドテーブルに置いた。 「では失礼します」  頭を下げて部屋を出ようとしたところで振り返ると、トーマがいそいそとトレイに手を伸ばそうとしている瞬間だった。 「…………」 「…………」  気まずそうに手を引っ込め、トーマはコホンと小さく咳払いをする。 「何か用が?」 「あっ、はい! こちらの部屋にも掃除に入りたいのですが、よろしいでしょうか?」  ここもルカの部屋同様、埃っぽくて湿っぽい。  随分と窓も開けていないのか、空気もどこかどんよりと澱んだような気配が濃かった。 「ああ、机の上は触らないようにしてくれれば……」  そう言いつつ、トーマの視線はトレイに釘付けだ。 「書類は一枚も捨てずにまとめておいてくれたらいい」 「承知いたしました」  もう少し話を長引かせて、真剣な様子でお菓子を見ている姿を見ていたいって思ったけれど……流石に悪趣味だ。  素直に頭を下げて部屋から出た途端、部屋の中からカチャンって音が響くのが聞こえた。 「ふふ」  ドロップクッキーとカトルカールのどちらを先に食べ始めたんだろうって考えると、自然と笑いが漏れてくる。  相手は僕よりも年上だし、口数も少ないし、笑ったりもしないけれど、なんだかそんな部分を可愛いと思えてしまう。  

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