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第45話
「雇い主を可愛いなんて思っちゃ、ダメなんだろうけどね」
小さく苦笑いをしながらルカの寝相を直しに行った。
リンは今朝もちょっと不機嫌そうで、僕が朝の挨拶をしても「ふん」とそっぽを向かれてしまう。
よっぽど僕のことを気に入らないんだろうなってことはわかるけど、自分は変えられるけど他人は変えれないって言葉を思い出して割り切ることにした。
「あ、リンさん」
トーマの食事が終わるのを待っているリンにそっと声をかける。
「先日お願いしたことなんですけれど……」
「は? それ今言う必要があること?」
つん と言われてしまうけれど、今言わなきゃいつ言えばいいのかわからなかった。
朝のこのタイミングで伝えないと、夜まで会えない。夜は夜でトーマと食事をしたら仕事の話をしていて話しかける隙なんてなくて……リンの連絡先も教えてもらえない状態で、どうすればいいのかさっぱりだ。
「今はスポンサー契約のことで忙しいんだから、煩わせないで」
キツい物言いで言い捨てられると、思わず怯んでしまう。
立て替えの精算がそこまで時間のかかることだとは思えないのだけれど……
「家事しか能がないのにちゃんとしてよ! それくらいしかできないんでしょ⁉︎」
「……っ、申し訳ありません……」
抗議することもできたと思う。でも怒鳴り返された瞬間、大家に怒鳴られた時のことを思い出してしまって……ぐっと唇を噛無しかできなくなった。
じっと僕の様子を見ているリンをそろりと見返す。
小さな顔に華やかな顔立ち、黒目の大きな両目は作り物じゃない自然なふさふさのまつ毛に彩られてキラキラとしている。つんと不機嫌に尖らされた薔薇色の唇でさえ可憐で……ソファーに座っているだけなのに、そこにスポットライトでも当たってるんじゃないかってくらい華があった。
これだけ綺麗ならΩでも堂々としていられるのかなって、項垂れてエプロンを握る。
「どうかしたのか?」
すっかり身支度を整えたトーマが背後から声をかけてきても、いつものように飛び上がる元気がなかった。
「なんでもなーい! 今夜はチキンが食べたいからリクエストしてたの!」
「今夜は会食だ」
可愛らしく言うリンにトーマはそう言い返し、僕に向かって「今夜は夕飯は必要ない」と続ける。
「承知いたしました」
「また……仕事を持ち帰るかもしれない」
少しそわりと体を揺すりながら言われ、再び「承知いたしました」と返事をする。
つまり、夕飯はいらないけれど夜食っていうか、おやつは食べたい と。
「あーあ、イーノフーズのご夫妻との会食なんて気が重ーい! おべっか使って機嫌取らなきゃなの、しんどいんだよね」
ぼやきながら玄関へ向かう二人の後を、ルカを抱きながらついていく。
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