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第47話
そっと開けると人のいない部屋独特のひんやりとした空気が隙間から漏れてくる。
灯りがついていないし、しっかりとカーテンが閉められているせいか春なのに寒いと思ってしまう。
「……なんだか、寂しいな」
綺麗で立派な家なのに中はどこもかしこも荒涼とした雰囲気でじっとりと湿っぽい。
「今日は風があるから、掃除機かける時に窓を開けるか」
とりあえず足元の書類と服を分けて……
「わ 」
端に避けられて積み重なっていた服を持ち上げると、ふわりと鼻先をくすぐるものがあった。
自然と、すん と鼻を鳴らすようにしてしまうとさらによくわかる。
夏空の青さを滲ませた匂いは爽やかなのにどこか懐かしい切なさを思い起こさせるもので……ぎゅっと胸を掴まれたような感覚に慌てて手を離した。
「っ!」
落ちた服がふわりと空気をかき混ぜて……僕は、ここがαの部屋だって思い出してしまった。
昨夜感じたトーマのフェロモンはもっと薄いもので、吹き抜ける風にわずかに紛れるようなものだったけれど、今鼻先をくすぐるのはもっと濃いものだ。
一日肌に接していたからだろうか? 漂うフェロモンは濃密で、抑制剤を飲んでいるのにはっきりと嗅ぎ取れるほどで……
「ん……いい匂い……」
ぼんやりと呟いて、つい服に顔を近づけてしまう。
初夏の風の匂い、走っていると頬をくすぐっていく爽やかな風の香りに似ている。
「 ん、んん……」
僕には確かに理性があった。
ここは勤め先のお家で、僕が感じているのは雇い主のフェロモンだ。
わかってる、わかってる!
わかってた……
頭で考えるんじゃない、本能の訴えで体が勝手に動いてトーマの服に顔を埋めてしまう。
クラクラしてしまうほど濃密な匂いは僕の理性なんてあっさりとへし折ってしまうほど魅力的で、鼻から入り込んで脳を揺さぶり出す。
手の中の洗濯物が至宝に思えて、顔を埋めたままうっとりと目を閉じた。
そうするとさらにトーマの残り香が強く香り、酩酊したように体がふらついてへたり込んでしまう。
床にはまだまだトーマの脱ぎ捨てたものがいくつも放り出されていて、僕はダメだってわかっているのにそれらにも手を伸ばした。
いくつもの同じような肌着とワイシャツと……ここにパンツがなかったのは幸いだ、あったらもしかしたらそれに頬擦りをしていたかもしれない。
「ぁ、 ん、ぁ」
腹の奥が焦ったくて膝を擦り寄せ、渇いたと感じた喉に懸命に唾液を送り続ける。
体の周りをむわりと包み込むねっとりとしたフェロモンに急かされて、僕は腹に手を置いて緩く揺すった。
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