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第51話
「保冷剤をお持ちしましょうか?」
ひくんと肩を振るリンの嗚咽を聞きながら、慌ててキッチンに行こうとした僕をトーマが呼び止める。
「すぐに帰るから必要ない」
ばっさりと切り捨てる言葉に、縁で止まっていたリンの涙が真珠のように転がり落ちた。
「明日は休みだ。来なくていい」
「 っ、はい」
まるでドラマのワンシーンでも見ているかのような美しい泣き顔に、僕は居た堪れなくなって急いで保冷剤を取ってくる。
僕が泣いたらきっと顔はぐしゃぐしゃで鼻水も止まらなくて、目も腫れ上がって悲惨なことになると思う。
こんなところでも格差が見え隠れしてしまって少し落ち込むけれど、泣いているのを羨ましく思っても仕方ない。
はらはらと泣くリンを追いかけて玄関を飛び出して追いつくと、その手に保冷剤を差し出した。
「あの! これ、よかったら」
街灯の明かりを受けて、リンの涙を溜めた瞳は宝石箱のようだった――けれど。
「は? よかったらって何? これはトーマの家のものでしょ? 何を自分のものみたいに持ってきてんの?」
つん とした言葉と共にリンが瞬きすると、目の端から雫が振り落とされて地面に消えていく。
「はぁ、サイアク。なんであんたが追いかけてくるわけ? あんたがきたらトーマが追いかけて来られないでしょ? いつもみたいに抱きしめて欲しかったのに……」
さっきまでの儚い雰囲気が消え去ったリンは普段通りに見える。
「仕込みが全部無駄になったでしょ!」
僕の手の中から保冷剤を取り上げると、「空気読んでよ」と吐き捨てるように言って背を向けて去ってしまった。
わずかに残る保冷剤の感触に指先を擦り合わせて……
「……うん、泣いてないならそれでいいや」
切り替える! ここで一番大事なのはリンの目が腫れて痛々しそうなのが嫌だったってことなんだから、これでいい……よね?
この胸がモヤつく感じは、綺麗だなって思った涙が嘘泣きだったことに対するものだって無理やり飲み込んで家に入ると、玄関で立ち尽くしたままのトーマと鉢合わせた。
途端、気まずくなって思わずエプロンを握りしめる。
リンが泣いて、トーマが帰れって言って、静かに立ち去るリンをトーマが追いかけて、抱きしめあって……慰めて…………それから濃密な時間を過ごすのが、二人のいつものやりとりだったのかもしれないって思うと、割り込んでしまった僕はどれほど邪魔だっただろうか。
だからトーマもここで立ち尽くしたままなんだろう。
恋人同士の邪魔をしてしまったことに、僕は慌てて頭を下げた。
「すみませんっ出過ぎた真似をしてしまって……今からでも追いかければ……」
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